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神戸市役所に再犯防止コーディネーターがいるワケ


インタビュー中断の危機

「先に再犯防止の研修動画を見てもらった方がいいんじゃないですか?」

インタビューを始めて間もなく、再犯防止コーディネーターの上利 博美(あがり ひろみ)さんはそう言った。
しばしの沈黙の後、同席していた相談支援課の佐々木係長が苦い顔で応じる。

「でもインタビューのために来てもらっているわけですから、とりあえずインタビューは進めましょう」

私は胸をなでおろす。
良かった。
研修動画(何時間あるのだろう…?)を見てから出直せと言われなくて!

私はこの日、神戸市が今年度から取り組んでいる再犯防止支援の取材に来ているのだ。

自分なりに予習してきたのだが、広報戦略部に異動してきてまだ1カ月。
人生で初めての取材である。上利さんや佐々木係長にとんちんかんな質問をしてしまったから、冒頭のような言葉をいただくこととなった。

しかしインタビューを進めていくと、再犯防止の問題は、私が想像していた以上に複合的なものだった。

佐々木係長

再犯防止は警察や司法の仕事じゃないの?

さて、話はインタビューの半月前にさかのぼる。

神戸市役所に「再犯防止コーディネーター」がいるらしいと聞いて、私は首をかしげた。
だって、再犯防止は、司法や警察の仕事じゃないの?
神戸市役所に再犯防止コーディネーターがいるワケが、今ひとつ腑に落ちない。

とはいえ、市役所の担当業務は広い。
多岐にわたる業務の中には、司法や警察っぽい仕事をしている部署があって、そこに「再犯防止コーディネーター」がいるのでは?と推察した。

が、全く違った。

再犯防止に取り組んでいるのは、福祉局 相談支援課だ。
福祉局といえば、高齢者・障害者の福祉や生活保護、生活困窮者の自立支援を担当していて、警察や司法に関わる業務はしていない(「組織と業務内容の一覧表」を確認した)。

相談支援課の業務はというと、
⑴複合的な福祉課題を抱えた世帯への支援
⑵家族のケアを行う子ども・若者の支援
⑶ひきこもり状態にある者やその家族などへの支援
⑷福祉事業の企画、開発や推進
⑸再犯防止・更生支援
となっている(「神戸市組織図」でさがした)。

神戸市組織図

なぜ神戸市役所が、再犯防止の取り組みをするのだろう…?

相談支援課のミッション

この謎を解くため、相談支援課に取材に来たところで、話は冒頭に戻る。

私の不勉強によるインタビュー中止の危機を何とか免れ、丁寧に教えてもらったところによると…

相談支援課は今年の4月にできたばかりの部署で、ひきこもりやヤングケアラーなどの複合化した福祉課題を扱う。

ここで、「複合化した福祉課題」というキーワードをちょっと解説しよう。

福祉分野の法律は、生活に困った方には生活保護法を、障害を抱えた方には障害者福祉に関する法律を、といった形で整備されてきた。

しかし、社会の変化が進む中で、単純に生活費だけの問題、障害だけの問題と割り切れない、ひきこもりやヤングケアラーなどのケースが顕在化してきた。
そうしたケースを「複合化した福祉課題」と呼んでいる。

そうした課題に、一つの支援制度だけで対応することは難しい。
けれども、現実に困っている人がいる。

そこで、相談支援課が誕生した。

「複合的な課題を抱える人が支援から取り残されないよう、市全体で対応できるようにしていくのが相談支援課のミッションです。」
と相談支援課の佐々木係長は言う。


相談支援課の様子

再犯防止についても、同じことが言える。

【図】各種資料を基に作成

①刑務所に入った人の出所後の“出口支援”と、
②刑務所に入らない人への“入口支援”の仕組みは、ひとまず整備されている。

しかし、その網から漏れてしまう人に対しては支援が途切れがちで、その後も安定した生活を築くことができずに、再び罪を犯してしまうケースがある。

そこで神戸市の相談支援課は、再犯防止コーディネーターというポストを新設。
ことしの6月から、上利さんが採用された。

この話を聞いて、私はやっと気づいたのだった。

罪を犯した人の中には、福祉的なサポートが必要な人も少なくない。
再犯防止は何も、司法や警察だけの仕事ではないんだ。

国や県による既存の支援から漏れてしまう人たちに対し、神戸市はもう一歩踏み込み、住民に最も身近な基礎自治体だからこそできる生活再建を支援する。
これが、神戸市役所の「再犯防止」なんだ。

再犯防止コーディネーターの仕事

では、再犯防止コーディネーターの仕事はどんなものだろうか?

その大きなミッションは、支援を必要としながら、どこにもつながれない人が発生することを防ぐことだ。

逮捕されたけれども短期間で釈放された人のうち、福祉的な支援が必要だと認められた人は、検察や保護観察所から相談支援課につながれる。

そのとき上利さんの具体的な仕事は、相談者と面会を重ね、必要な支援が何なのかを解きほぐしていくことだ。

「相談者が困りごとを整理して伝えられる人なら、そもそも私のところに来ていないんですよ」と上利さんは言う。

「だから相談者からじっくり話を聞きます。拘置所や地域、相談者がいる場所に出向いて、何時間でも。相談者が何に困っているのかを整理し、相談者の意向を確認しながら、支援の窓口につなぎます」

6月に着任以来、これまでに13件の相談を受けてきた。
生活保護の受給、介護保険の適用、障害者手帳の取得など、必要な支援やつなぎ先は相談者によってケースバイケース。
多種多様なつなぎ先との、顔の見える関係づくりに努めているという。

神戸市役所に再犯防止コーディネーターがいるワケ

上利さんに、今後の目標を尋ねた。
「私の目標は、私のポストが必要なくなることです」

その心は?
「相談者の中にはきっと、罪を犯す前に区役所に相談に来ていた人もいるはずです。もしその時点で、相談者の抱える悩みを汲み取ることができていたならば、必要な支援につなげていれば、罪を犯すことはなかったかもしれません。」とのこと。

研修の様子

上利さんは本気でこの目標に挑んでいる。
その証拠に、着任の翌月には、区役所やあんしんすこやかセンターだけでなく、外部機関に向けても研修も開いた。

研修の様子

上利さんの願いが叶ったらどうなるだろうか。
再犯だけではなく、きっと初犯も減るだろう。
すると罪を犯す人も、犯罪被害で苦しむ人も減る。

「再犯防止は、何も特別なことではありません。過去に罪を犯したことばかりが着目され、必要な支援が受けられなくなることがないよう、困っている人に支援をきちんと届けることを目指しています。」

これが、神戸市役所に再犯防止コーディネーターがいるワケである。

〈この記事を書いた人〉
みかん/広報戦略部
今年10月、広報戦略部に異動となり、奮闘中の毎日。異動前はIT畑にいた。プログラム言語は書けても、日本語の文章が書けないのが大きな悩み。2024年の目標は、文章が書けるようになること。
バチェラー3のしんめぐファン。放送を楽しみにしているアニメは「ザ・ファブル」。


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