マンホールが隆起した能登半島、下水がなかなか復旧できない理由
能登半島の被災地では、水道と下水が復旧しないことが、生活再建に向けた大きな足かせとなっています。
下水道と水道のどちらを優先すべきかを聞かれれば、水が出ないと困るので、「水道かな?」と答える人が多いと思います。
が、そうではありません。
というのは、トイレ一つをとっても、水道が出たとしても、下水が復旧していなければ、流せないので事実上は使えません。お風呂もそうです。
飲料水など生きていくのに必要な水が確保できれば、水道だけでなく下水道も一緒に復旧させる必要があります。
震災直後から、水道と下水道部門の神戸市職員が石川県穴水町(あなみずまち)に入って、被害調査や復旧の支援をしてきました。
今回はその「下水道」に焦点を定めて、現地の様子をお届けします。
能登半島での下水道被害
穴水町では、道路は至るところでガタついています。
マンホールが1メートルほど地表から飛び出している箇所も。
街の中心から2キロほど南の海沿いにある下水処理場は、そこにたどり着く道が崖崩れで寸断されていました。
数値で見ると、その圧倒的な被害の大きさが分ります。
下水道の被害の大きさと復旧までの道のりの険しさは、管理している下水管のうち何パーセントが損傷したのかの割合で示せます。
阪神・淡路大震災では、北区や西区でほとんど被害がなかったこともあり、総延長の約2%に過ぎませんでした。新潟県中越地震や熊本地震などでも10%未満がほとんどです。
ところが、穴水町では管理している約39キロメートルの管路のうち、なんと60%を超える30キロメートル近くで被害が出ていることが判っています(詳細は現在も調査中)。
完全復旧には年単位の時間がかかりますが、下水道が使えないと生活がままなりません。
そこで、汚水管の詰まりを解消させるなど応急的な復旧を急いでいます。これに神戸市だけでなく応援に入った自治体の職員たちが心血を注いでいるのです。
被害の原因は地盤の液状化
ここまで被害が大きくなった原因は特定されつつあります。冒頭の写真にある飛び出すように隆起したマンホールにそのヒントが隠されていました。
答えは「地盤の液状化」です。
大きな地震のたびに耳にする「液状化」。いったいどのようなものなのでしょうか?
地面の下には砂や石が隙間なく埋まっていると思いがちです。ところが、けっこう水分を含んでいるのです。すると地震でゆさゆさと揺らされると、地表近くは泥水のような状況になります。というのは、比重の大きな砂は重力に引っ張られて下に移動し、逆に水分が上にあがってくるからです。
すると、地面から泥水がドバっと吹き出す。その代わりに地表であったはずの場所が沈下したり、斜めになったりします。しかも、下水道管はなかが空洞で軽いので浮き上がります。これらによって、マンホールが飛び出したようになるワケです。
こうなると地表近くの土が柔らかくドロドロになるので、建物や電柱が傾き倒れ、道路がガタガタに。
地中に埋まっている下水道管にとっても、たまったものではありません。下水管を支えていたはずの周囲の土が、逆に激しく動いて下水管を壊します。
どうやら、穴水は海に近く、穴水湾にいくつもの川が流れ込んでいるなど、水分が多い土壌なので、液状化が起こりやすい地形だったようです。
阪神・淡路大震災では、ポートアイランドなどの人工島で大規模な液状化が起きました。
液状化を防ぐには、地盤改良を行うとか、建物等の構造を工夫するとかが考えられます。ただ、いずれも多額の経費と時間がかかるので、まちや建物などができてから対策するというのは現実的ではありません。
将来の災害に備えた取組み
大災害が発生したとき、下水が使えずトイレができないのは、ほんと苦しいものです。
そこで神戸市では、もし下水処理場の一つが止まってしまっても、隣の下水処理場で汚水を処理できるように、地震に強い太い配管で処理場間をつないでいます。「処理場間ネットワークシステム」と呼ばれるこの仕組みは、阪神・淡路大震災の経験を踏まえたものです。
また、避難所など市内58カ所では、水洗式の仮設トイレから出た水を地震に強い下水本管に直接流せるように工事をしました。学校ではプールの水も利用可能。「こまらんトイレ」と名付けられていて、近くに住んでいる人たちだけで設置できるように日頃から訓練もしています。
最後に…私も穴水町を訪れました。神戸の経験から同町役場の若手職員を励まそうとしていたら、逆に笑顔で「復興したら、きっと神戸に遊びに行きます!」と言ってくれ、元気をもらいました。うれしかったです!
まちは、傷ついたり、姿が変わったりします。しかも時間がかかると思いますが、必ず復興を遂げられます。これからも神戸市は、被災地のために役立ちたいと考えています。
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