神戸市が珠洲市の被災者向けウェブ広報を支援へ 専門職員を派遣
能登半島地震の被災地では、神戸市から、救命救助、給水、避難所の運営、被災者への健康支援、道路や下水道の被害調査など、現時点で100人を超える市職員が活動中です。
そんななか、思いがけない要請が私のもとに届きます。神戸市の重点支援先、石川県珠洲市にいる神戸市職員からのヘルプメッセージでした。
その内容は、被災者が必要としている支援情報が、ウェブで届けられていない。ホームページなどウェブ広報の専門人材を送ってほしいというものでした。
被災者支援への鍵を握る広報
広報部門の職員数は自治体によって大きく異なります。守備範囲はマスコミ対応、ホームページ、広報紙、SNSなどで、神戸市役所であれば40人ほどが従事しています。
ですが、人口が1万2千人余りの珠洲市は、職員全体で約400人。直感的に、広報を担当しているのは、一人か、良くて二人と思いました。
そこで電話で聞いてみると、案の定、一人だったのです。
珠洲市に派遣されている神戸市職員からは「被災者が知りたい情報がホームページなどで出せていない。ウェブの技術に長けて、住民がほしい情報を発信するノウハウを持つ職員に来てほしい」と助けを求められたのでした。
珠洲市の65歳以上の割合は50%以上。全員がスマホを使えていないと思います。ですが、現地では携帯の電波は生きているので、避難所でも近くにいる人がスマホを使えれば、ほとんどの被災者に支援情報が伝わるのです。
ところが、情報の出し方が悪ければ、被災者は不安になったり、混乱するので、避難所や窓口で質問が殺到してしまいます。
珠洲市のウェブサイトを見ると、公式LINEでの登録を呼びかけていました。被災者への情報伝達にSNSを使っていこうという方針が見て取れました。
ですが、私が珠洲市のLINEに登録したところ、気象情報や余震の速報しか配信されません。登録者は3000人を超えていますが、手が回っていないと感じました。
同市の公式ホームページでは、被災者向け情報が時系列で掲載されているだけで、なかにはリンク切れもあり、ギリギリの綱渡りでやっているようです。
HP監理官とSNS担当係長を派遣
そこで、ホームページ監理官の金田侑士さんと、SNS担当係長の奥田雄大さんを派遣することを決めました。
金田さんは、三菱UFJグループ、アクセンチュア、リクルート、三井住友信託銀行という多彩なIT部門のキャリアを経て、3年前に神戸に転職。今年3月までの任期で働いています。神戸市のホームページが最近、見やすくなったのは彼の功績です。
奥田さんは、旧Twitter(X)、Facebook、Instagram、神戸市公式LINEという、今では自治体に不可欠なSNSを全て担当しています。その投稿文をつくるのに、ChatGPTを使うなど、新しいことをするのに臆さない自治体職員には珍しいタイプです。
神戸市としては、ウェブとSNSの二人のエースを投入することにしました。
ただ、現地ではベッドや布団では寝られません。市役所の廊下や体育館での雑魚寝になります。ですが、私から二人に相談すると、ほぼ即断で「行きます」と答えてくれました!
広報業務の支援はかなり異例
2004年の新潟県中越地震から、被災地を神戸市が応援するのを見てきた私ですが、これまで広報業務での職員派遣は、聞いたことがありません。
というのは、被災地の災害対策本部で広報はとっても重要な仕事。なので、被災自治体がしっかりと掌握しておくべきものです。
さらに、行政と住民との間合いは地域ごとに違っていて、土地勘がわかっていなければ、被災者にうまく情報を届けるのが難しいのです。
だから、これまで被災地からの広報分野の支援要請がなかった訳です。
なので、珠洲市は、はっきり言ってかなり困っているのだと感じました。
ただ、今やウェブとSNSの時代。
今回派遣する二人は、阪神・淡路大震災の経験はありません(当時、金田さんは8歳、奥田さんは10歳)。
ですが、被災地からまさにいま求められている人材なのです。新しい形の神戸市の貢献の姿を垣間見たように思えました。
二人は17日に出発。心からエールを送りたいと思います。
もちろん、神戸側では広報戦略部の約40名の職員が二人をバックアップします。何かこちらでできる作業や調べごとがあれば、直ちに対応できるよう体制を組んだところです。
とはいえ、まずは自分たちの身体を大事に考えてほしい。そして、珠洲市で被災した人たちに寄り添いながら、いつも通り二人の特技を生かした仕事をしてもらえたらと願っています!
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