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神戸市が本腰! 能登半島の被災地支援に対策本部を設置

能登半島の被災地が心配です。焼け野原となった輪島朝市の周辺、道路をふさぐように倒れた家屋をニュースで見るたびに、寒かった29年前の神戸の風景がよみがえります。

きょう神戸市は、「能登半島地震被災者支援対策本部」を設置。朝10時から、久元喜造市長をはじめ、幹部職員ら48名が市役所1号館14階の会議室に集まって、これからの支援をどうするのか、本格検討を行いました。

国内外の人たちからの温かい支援があって、あの大震災からの復興を遂げた神戸。

だからこそ、支援がどれほどありがたいのかと、復興への道のりが長期戦になるのを知っています。そこで、しっかりと体制を組んで、神戸市をあげて取り組むことにしたのです。


能登半島地震の対口支援ってなに?

きょうの会議で神戸市は、能登半島の先端にある珠洲(すず)市に、「対口(たいこう)支援」をやっていく方針が確認されました。

おっと!「対口支援」ってなにでしょうか? 聞いたことがない言葉です。私も一瞬、「対向」か「対抗」の間違いかと思いました。

ちなみに、英語でいうと「カウンターパート支援」です。

今回のように複数の自治体が被害を受けたときに、支援を受ける側と支援をする側の自治体を、一対一に組み合わせるやり方を「対口支援」と呼んでいます。

そもそも「対口支援」は中国で、ある都市部がある農村地区を経済的に支援するときに使われていた表現です。「対」はペアを「口」は人を意味していて、一対一のペアで助けるという意味らしいです。

じつは、災害支援ではこの方法が大きな意味を持っています。

というのは、ほうっておけば、ニュースや新聞で一番被害が報じられている自治体に、全国から膨大な数の自治体が支援をしたいとバラバラに申し出てきます。そうなると、その被災自治体はたくさんの自治体の相手をするのに大混乱に陥ります。

それどころか、近隣の自治体でも大きな被害が出ていて、助けがほしいと思っても、支援から漏れてしまうおそれすらあるのです。

2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震でも、特に初期段階でかなりの混乱と支援の偏りがあったと指摘されています。

そこで、2018年3月に総務省が中心となり、全国知事会や指定都市市長会で、早い段階で自治体のペアを決める仕組みができました。今回は地震で全国からの対口支援がはじめて試されます。

指定都市市長会(会長:久元喜造)が決定した、各指定都市の支援先の自治体は以下のとおりです(2023年1月7日現在)。

石川県加賀市:静岡市
石川県珠洲市:浜松市、千葉市、神戸市
石川県七尾市:名古屋市、さいたま市、京都市
石川県輪島市:川崎市、大阪市、堺市
石川県志賀町:横浜市
石川県津幡町:相模原市
石川県宝達志水町:札幌市
石川県内灘町:仙台市

指定都市市長会ウェブサイト

役立つの? 阪神・淡路大震災の経験

ですが、よく考えてみると、阪神・淡路大震災から30年近く経ったいま、当時の経験は能登半島の被災地で、はたして役に立つのでしょうか?

輪島市における倒壊家屋

というのは、あれから日本では数々の震災がありました。阪神・淡路大震災ではじめて本格的におこなわれた「応急危険度判定」や「罹災証明」は、神戸市だけでなく、全国の自治体が実施手順書を持っています。

阪神・淡路大震災のときにほとんど支援がなかった、個人住宅の再建へのサポートも「生活再建支援制度」や「地震保険」が充実しています。

全国的な防災のレベルがアップしている今、神戸市は何ができるのでしょうか?

そんななかで開かれた今日の会議では、阪神・淡路大震災のときに仮設住宅の用地探しに奔走したという建築住宅局長の根岸芳之さんは、
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被災者が将来を見通せるように、いち早く仮設住宅にいつ頃入れるのかを説明していくのが有効。

ただし、神戸では仮設の入居者を決めるのに抽選を基本にしながら、高齢者など社会的な弱者を優先した。

その結果、高齢者ばかりが住む仮設住宅になったり、元の居住場所から離れた仮設に入らなければならないミスマッチが生じた。

なので、従来暮らしていたコミュニティを維持しながら、仮設住宅、恒久住宅に移っていけるようにする工夫が必要だ。
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と話しました。これにはなるほど。高齢化が進んだ今ではさらに大事になっている考え方ですね。

最後に久元市長は、「阪神・淡路大震災の経験だけでなく、神戸市はこれまでに東日本大震災や台風被害など全国各地の被災地を支援してきた。国の制度も29年前とは変化しているので、被災地支援の経験やノウハウも生かしながら的確な支援を行いたい」と締めくくりました。

元の生活に戻るまでの長い道のり

神戸市が重点支援する「珠洲市」は、今回の地震で大きな揺れに襲われただけでなく、津波でも甚大な被害を受けました。

珠洲市の人口は約12500人で、今その半数が避難所に身を寄せてます。ところが、市役所の職員数が400人ほど。圧倒的に対応能力が足りてません。

昨晩、危機管理室の職員2名が、珠洲市の災害対策本部に入って、情報収集をはじめました。

珠洲市の対策本部

それ以外にも、すでに消防局の航空隊員や水道局の応急給水部隊を現地に派遣。さらにノエビアスタジアムの災害救援物資を送るなど支援活動をはじめています。

被災地ではこれから、被災家屋の応急危険度判定、避難所でのサポート、罹災証明書の発行、被災者の心のケア、がれき処理、仮設住宅の建設をはじめとする、山積する業務に対応しなければなりません。しかもかなりの長期戦になります。

被災した人たちが、元の生活に戻れる、きっと戻れると信じられるまでが勝負です。

これからも「神戸市公式note」で、神戸市による支援活動をありのままにお届けしようと思います。

<この記事を書いた人>
多名部 重則/広報戦略部長兼広報官、Forbes JAPAN Official Columnist
2003年から2005年に内閣府(防災担当)へ派遣され、国の阪神・淡路大震災の総括検証を担当。神戸市に戻ると危機管理室に配属。2007年の能登半島地震では直後に現地に派遣されると、阪神・淡路の経験を踏まえた「生活再建への7つの提言」を輪島市長に行う。
2011年の東日本大震災では、危機管理室に呼び戻され、福島県などから神戸に避難した被災者の情報を住んでいた自治体に届けて、被災地を離れたことで各種支援の網から漏れないようにする「避難者登録制度」を発案。
現在も国内で防災分野の主要な学会の一つとされる「地域安全学会」に所属。博士(情報学)。

多名部 重則 Forbes JAPAN 執筆記事

※ 当該記事の1枚目(トップ)と2枚目の被災現場の写真は、阪神・淡路大震災の発災直後に神戸で撮影されたものです。

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