シティーハンターを撮った巨大な地下空間は神戸発展の礎だった!
20年ほど前まで須磨の海岸には、「須磨ベルトコンベア」と呼ばれる土砂を海上に運び出す施設の終点部がありました。
六甲山系の山や丘陵地を削った土砂を、ベルトコンベアで運んで、船に積みだす桟橋(さんばし)が、海上にあったのです。
ネットフリックス映画のロケ地?
今年4月からNetflixで、実写版の映画「シティーハンター」が配信されています。私も好きなこの映画、主役の冴羽 獠(さえば りょう)を演じる鈴木亮平さんが役にハマっていて、とってもカッコよかったです。
この映画のクライマックス、「とあるビルの地下プラント」での銃撃戦シーンは、じつは神戸で撮影されました!
かつて須磨のベルトコンベアを駆動させる機械が置かれていた、巨大な地下空間で撮影されたものなのです。
撮影で使われたのは神戸市西区の某所?!にある、「D3機械室」と呼ばれていた場所。横幅約15メートル、床から天井まで約11メートル、奥行き約90メートルの神殿のような巨大空間です。
ベルトコンベアは通常は直線でしか土砂を運べないのですが、この「D3機械室」で、運ぶ向きを20度ほど南寄りに変えます。
次のベルトコンベアに土砂を移し替える装置が置いてあったので、ここに大きなスペースが必要だったのです。
アーチ型の天井や無機質なコンクリートの壁面は、リアルさを追求する、今の映画ロケにはぴったりで、さまざまな映画・番組の撮影で活用されています。
国内にロケ撮影で使える巨大な空間は非常に珍しく、映画業界では知る人ぞ知る存在。巨大な地下空間で撮影するなら神戸だと、認知されるようになりました。
「山、海へ行く」事業の中核施設
この「須磨ベルトコンベア」は、海上に人工島を造るために必要な土を運ぶためにつくられました。そして、神戸の歴史、街の発展と切っても切れない存在だったのです。
戦後、神戸の街は急速な経済成長に伴い、1960年頃には年間で2万人ほどの人口増の時代に突入。住む場所が足りなくなりました。
というのは、六甲山と海に南北を挟まれた神戸の市街地は、住宅を建てられる土地に制約があったからです。
一方で、日本が加工貿易国となり、輸出入による貨物量が急増したことで、将来の神戸港の能力不足が心配された頃でした。
そのようななか、神戸市役所で奇想天外な案が生まれます。
その案は、海を埋め立てて人工島をつくり神戸港自体を拡大し、貨物の増加に対応する。一方で、埋め立てに使う土砂は六甲山地を削り取って、その跡地を住宅団地や工場用地として造成するというモノでした。
まさに一石二鳥です!
その結果、1980年ごろに神戸港は、コンテナ取扱個数で世界3位の国際貿易港に。また人口増もその後、阪神・淡路大震災まで続いたのでした。
先見の明があったこのやり方は、「山、海へ行く」と呼ばれ、公共デベロッパー(行政主体の開発者)の成功例として、神戸市は世界から注目されます。
トラックで土砂を運ばないワケ
ところで、土砂を運ぶのはダンプトラックでもいいんじゃないか、なぜ、わざわざトンネルを掘ってまでベルトコンベアを作ったのか、と思われる人もいると思います。
たしかに土砂はベルトコンベアの投入口まではトラックで運んでいました。ですが、埋め立て場所まで持っていくには、神戸の市街地を通らなければなりません。
当時は「モータリゼーション」といって、自家用車の普及が拡大し、交通量が急激に増えた時代。排気ガスや騒音などの公害、渋滞や交通事故などが問題になっていました。
そのようななかで、大量の土を大量のトラックで運ぶと、人々の生活や交通への悪影響がでるのを考慮して、環境にやさしい手法としてベルトコンベアが採用されたわけです。
運んだ土砂はダンプ7200万台分
1963年にはベルトコンベアの建設に着手し、翌年には稼働が始まります。当初は1.4キロでしたが、人工島の埋め立てが進みます。すると、土砂を取る場所が北へ北へと移り、それにあわせてトンネルが延伸され、最終的には14.5キロという長さになりました。
造られた島は、ポートアイランド、六甲アイランド、神戸空港島です。神戸空港島への土砂積み出しが終わる2005年まで、約40年間に運び出した土砂は約5億7800万トンでした。
大型ダンプトラック(土砂8トン/台)で換算すると7200万台分。稼働していた41年間で平均すると、毎日4800台のダンプが運んでいたのと同じです。
生み出された土地の面積は、陸地側で約1200ヘクタール、海上側で約1700ヘクタールになりました。じつに約13万人が暮らせる土地をつくったと言われています。
そして、最後の埋立地となった神戸空港島での土砂受入れが終わると、須磨海岸にあった国道2号をまたいでいた桟橋が2006年9月に撤去。
いまの神戸の街をつくった「須磨ベルトコンベア」は、その使命を終えました。
須磨ベルトコンベア跡地の現在
ベルトコンベアの機械設備は、ほぼすべてを譲渡や売却によって処分しましたが、トンネルはそのままです。
古くなっていたトンネル一部はコンクリートを充填しましたが、北側の大部分、約7キロは現存。
そのトンネルの一部がロケ撮影で、使われているのです。
神戸の発展の礎となったベルトコンベアは、役目を終えたあとも、こうやって貴重な公共空間として有効活用されています。
残念ながら通常は立入禁止ですが、今週12月15日(日曜)18:55から、サンテレビの新番組「魅する神戸 -Discover Kobe-」で、現在の須磨ベルトコンベア跡地の神秘的な映像が放送されます。
この番組は、テレビ局がいつも使うカメラではなく、8.6Kというテレビ用カメラの16倍以上の解像度で撮影できる、ソニー製のシネマカメラ(映画用カメラ)を使用して、特別に撮影したものです。
テレビ番組の水準を大きく超えた映像美をご覧いただけます。たった4分間の短い番組です。お見逃しのないように!
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