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神戸にツキノワグマが現れる日、そのとき私たちはどうする?

衝撃的なタイトルに、ドキッとしてしまいます。

去年くらいから、人が住んでいる町なかにクマが出没する映像がニュースでもたびたび見られるようになりました。

町なかに現れるクマをアーバン・ベアと呼ぶそうですが、「こんなところまで……」と驚き、怖さを感じた人も多いのではないでしょうか。

神戸は、市街地のすぐそばに山も海もあるのが大きな魅力です。

その魅力を裏返せば……「山がすぐそばにある」のだから、クマが市街地に現れるニュースも決して他人事ではありません。

そんな危機感から7月31日、「神戸にツキノワグマが現れる日 ~人間と自然の共生を考えるフォーラム~」を開催しました。

舞台上にはクマ、シカ、アライグマの剝製があって臨場感たっぷり

平日開催にもかかわらず、定員100人に対して90人以上の参加が!みなさんの危機感・関心の高さを感じます。当日の様子を、広報戦略部ライターのゴウがレポートします。

*本州以南で見られるとしたら、分布的にヒグマではなくツキノワグマだそうで、タイトルを「ツキノワグマ」としています


今、神戸にクマは出てきてるの?

実はすでに、神戸市内で「クマを見た」という目撃情報はいくつかあります。

ただ、情報を受けて現地調査をしたところ、出没を確定づける痕跡(足跡やフン、爪痕など)は確認できなかったそうです。

目撃情報や有害鳥獣対策については、こちらをご覧ください

イノシシや他の動物との見間違いかもしれませんが、クマじゃないとは言い切れない、という段階です。

ちなみに、北区道場町に近い宝塚市の西谷地区では、監視カメラにクマの姿が映っていたそう。

神戸でいつクマが出てもおかしくない。事態はそこまで迫っているようです。

パネリストのみなさんの資料からも、やはりクマが出没する範囲が以前より広くなっていることがわかります。

兵庫県立大学教授 横山真弓さんのスライドより

原因は、エサとなるドングリの凶作や、山と町の緩衝地帯である里山の衰退もありますが、過去にツキノワグマが絶滅の危機に瀕していたため、保全していて回復したことも関係しているとのこと。

うーん、バランスって難しいですね……。

もしクマに遭遇したら

■クマとばったり出会わないためには

  • クマは通常は人を避けるので、山に行くときは音の鳴るもの(鈴やラジオ)を携行する

  • 日の出、日の入りの時間に採食行動が活発になるので、夕方~朝方までの外出には注意する

兵庫県森林動物研究センター提供

■クマに悪い癖をつけないように

人間の食べ物がおいしい!と覚えると、クマを町なかに誘引してしまいます。

  • ごみを野外に置かない。畑への残飯まきや、収穫しない野菜の放置もNG

  • 食料は屋内で保管する。穀物やペットフードを納屋に置くのも要注意

  • 不要な柿や栗の木は伐採するか、早めに果実を取り除く

■万一、クマに遭遇したら

  • クマがこちらに気づいていない場合→→気づかれないように静かにその場を立ち去る

  • クマがこちらに気づいている場合→→ゆっくりと後退してその場を立ち去る

  • 集落にクマが出たら→→周辺の住民に知らせ、近づかないように徹底する。役所へ出没を連絡する

大声を出したり走ったりすると、かえってクマを興奮させてしまいます。

ツキノワグマに会ってきました

このフォーラムの取材が決まったとき、「生きてるツキノワグマを見てみよう」と思って、王子動物園に行ってきました。

王子動物園には、チベットヒグマ(ウマグマ)、エゾヒグマ、ツキノワグマの3種が飼育されています。

チベットヒグマの「マー」

この3種のうち、最も体格が小さいのはツキノワグマです。

でもあなどるなかれ。ちょうどエサをあげるタイミングに遭遇したのですが、他の2種のクマは穏やかにエサを待っていたのに対し、ツキノワグマは飼育員さんが通ると「ちょーだい、ちょーだい!」と立ち上がって催促。

ツキノワグマの「タケちゃん」

いつもの飼育員さんだから甘えているのかと思いきや、「食べ物を持った人間なら、誰にでもこんな感じになる」とのこと。

動物園で見ているぶんには、愛着が湧いてとてもかわいいです。でも、こんなクマに山で遭遇したらと思うと……。

シカ対策も緊急課題!

クマもさることながら、シカの被害も深刻なんです。

なぜシカが増えるといけないのか。それは、シカの増加は土砂崩れを引き起こすおそれがあるからです。これを聞いて、びっくりしました。

シカは食べ物の選り好みが激しく、好きな植物は、禿げ山になってしまうくらい食べ尽くすんだそうです。

そのため、その山の植生が乱れる→植物が土をせき止められなくなる→雨で地盤がゆるむと土砂崩れが起きやすくなる、というわけです。

とくに六甲山はもともと地質的に地盤がゆるいので、久元喜造市長も「絶対に六甲山にシカを入れない」と、言葉に相当な力を込めていました。

クマとシカに囲まれた市長、貴重な画ですね

イノシシやアライグマ対策も

もちろん、イノシシやアライグマの対策にも力を入れています。農作物を荒らしたり、イノシシの場合は人をケガさせることもあるからです。

神戸市には全国でも珍しく、イノシシにエサをあげることを禁止する条例があります。

イノシシやアライグマ、シカなどを見かけたり、庭や畑を荒らされたりしたら、市の「鳥獣相談ダイヤル」にお電話ください。

TEL:078‐333-4408

情報を寄せていただくことでデータが集まり、出没しやすい地域を把握できるので、対策がしやすくなります。

実際に、イノシシによる人身被害(驚いて転倒など)は、鳥獣相談ダイヤルがなかった2014年度は年間45人だったのに対し、相談ダイヤルを導入して知見が蓄積された結果、2023年度は4人にまで減っています。

「一寸の虫にも五分の魂」ということわざがあるように、どんな生き物も、命の重さは同じはず。人間の都合で「有害鳥獣」と呼ぶことには心苦しさを感じます。

でも、何もしないままだと、私たちの生活が脅かされてしまいます。

パネリストのお一人は「罠をしかけて捕獲したりすることに、市街地の人ほど理解を得るのが難しい」と話していました。

たしかに都市部に住んでいると、ペットや動物園など「飼われている」状態の動物に触れることしかないですもんね……。

まずは神戸の現状を知って、食べ物やごみを屋外に置かない。そこから始めようと思いました。

<この記事を書いた人>
ゴウ/広報戦略部 クリエイティブディレクター
神戸市在住のフリーライター。ソーシャル経済メディアNewsPicksや、京阪神エルマガジン社のメディアで活動。神戸市の施策を書いた記事が「わかりやすい」とnoteプロジェクトに召喚され、週1日だけ市役所の「中の人」に。役所ならではの用語や作法に「それ何?」とつっこみながら、どうやって役所のお堅い印象を和らげるか、日々頭をひねっている。
旅とバーとパンダが好き。

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