悲惨な事故の加害者になる前に! 免許返納の相談窓口を開設
毎週のように、高齢者がアクセルとブレーキを踏み間違えて車がお店に突っ込むというニュースを目にします。ときには、歩道上の人をはねる悲しい記事を見ることも。
私はこの仕事をするまでは、どうして高齢者の事故だけこんなに大きなニュースになるのか?と思っていました。若い年代の人も事故をするのに、テレビ局や新聞社が、高齢者の運転を目の敵にしているだけじゃないかと。
ところが、高齢者の暮らしをサポートする部署で働くことになり、いろいろ調べてみると、交通事故での死者数は大きく減少しているのに、高齢者による事故での死亡件数はさほど減っていないことを知りました。
高齢者による交通事故の死者数
じつは、日本全体での交通事故の死者数は劇的に減っています。1990年代は年間で約1万人が亡くなっていましたが、今は約2600人(2022年)です。
これは、飲酒運転など違反の厳罰化、それとエアバックや自動ブレーキといった車の安全性能の向上が理由になっています。
この10年間をみても、2012年に4438人だった死者数は2022年には2610人と△42%です。ところが、75歳以上の運転に限ると462人が379人に減っただけで、△16%と明らかに減り幅が少ないですね。
高齢ドライバーの人数が増えたのと、下のグラフのように高齢になると死亡事故を起こすおそれ自体が高くなるのがその理由です。
では、なぜ事故を起こしてしまうのかを見てみましょう。75歳以上でみると「ハンドル等の操作不適」が事故原因の約30%を占めています。この「ハンドル等」の「等」に、よくいわれる「ブレーキとアクセルの踏み間違い」が含まれています。
そして、その割合は7.7%。あれ、意外と少ないと感じるかもしれません。ですが、75歳未満だとわずか1.1%。なんと7倍にもなります。踏み間違えは大きな事故につながるので、とても大きな問題といえます。
なので、警察としても高齢者運転による事故削減に力を入れ、世間的にも注目をあびるわけなのです…
進んでいるの? 運転免許の返納
そんななか、判断力が鈍くなったり、若いころのように俊敏に動けなくなったりする高齢者に運転免許の自主返納を促すことで、運転自体をやめましょうという呼びかけがおこなわれています。
そして、2022年に兵庫県では約2万人が運転免許を返納しました。
うん? 2万人って、それなりの数だけど、進んでいるといえるのでしょうか?
じつは、2022年末に兵庫県で免許を所持している人は343万人、その中で65歳以上は78万人、75歳以上では26万人です。ということは、75歳以上の9割を超える人が1年経っても免許を持ったままなので、まだまだ自主返納をする人が少ないのです…
どうして進まないのでしょうか?
それは、高齢者本人はまだまだ大丈夫だと思っているからです。でも、家族からみると、高齢になった親の運転が不安で、できれば運転をやめてほしいと思っていることが多いのです。
自分は大丈夫! 高齢運転者の心理
とある一家の様子を見てみました。
79歳になる男性が今回の主人公。今は77歳の妻と二人暮らし。子どもたち二人はともに結婚して別の家に住んでいる。長男は51歳、長女は48歳になり、すでに孫たちが4人いる。
長男の孫の誕生日が近いこともあり、男性は妻と一緒に自分の車で長男宅を訪問。ところが、家の駐車場に入れるときに、車が家の壁にわずかに接触。長男が車を見ると今回こすった傷とは別のところにも跡がある。
そのときに長男は、「そろそろ運転免許証を自主返納してはどうか」と話をした。だが、「週1回は運転している。まだまだ大丈夫だ」と断固拒否。
次の夏休みに家族全員が実家に集まった。長男は長女に車をぶつけたことを伝えていた。みんなで父親を説得しようという作戦だった。それでも相変わらず聞く耳を持ってくれない。
そのあと、長男・長女でどうすればいいかと話し合った。思い切って、警察に相談しようかと考えたが、そんなことすれば、逆に大ごとになってしまうという不安もよぎり、結論は出ずじまい。
若いころから運転が好きで、その腕にも自信を持っていた父親だった。事故どころか車をこすることもほとんどなかっただけに、長男たちは、本人が大丈夫といっても、はっきり言って不安のほうが強い。
そんなある日、長男は「スーパーで車暴走し3人負傷 79歳男性運転」というネットニュースの見出しを目にする。まさか・・・と思い、記事を読むと、父親ではなかったが、このままではいけないという思いが強くなってきた。
神戸市/免許の自主返納相談窓口
この79歳の男性の話はよくある事例です。そんなときに、不安を感じながらもどうすればわからないご家族のお役に立つように、5月1日から「運転免許自主返納相談窓口」を設置します。
この窓口では、運転者本人やその家族からの相談を受け付けています。
運転者本人:
運転の頻度や状況、身体で何か不安はないかをお聞きします。免許の更新や返納のしくみなど不明な点があれば、質問して頂ければ、わかりやすくお話します。
ご家族から:
運転者の状況をお聞きしたうえで、どうやれば理解が得られるのかといったお悩みに、さまざまな事例を踏まえながら助言します。
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誰にも起こりうる交通事故。被害者だけでなく、加害者やその家族の人生も台無しになってしまいます。高齢で運転が不安という人やその家族、そんな話を聞いたという人は、この窓口のことを思い出してもらえればと思います。
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