佐用町に派遣された神戸市職員の活動記録 不要山林を引き取る自治体?!
岡山県との県境に兵庫県佐用町があります。のどかな山あいに約1万5千人が暮らしています。有名なのは「ひまわり祭り」で、テレビや新聞で毎年のように取り上げられています。
そんな佐用町に、神戸市の職員である私、三浦が派遣されています。
というのは、2021年に神戸市と佐用町が結んだ連携協定がきっかけとなって、今年4月から1年間、同町役場で私が勤務することになりました。
私の給料は神戸市に払ってもらってます。なので、神戸市側にメリットがあるのか、何か佐用町で学べるの? と疑問に思う人が多いと思います。
ここにきて初めて知ったのですが、佐用町は山林の管理で一歩先を行く自治体なのです。
神戸市と佐用町の共通点
150万人が住む神戸市と佐用町は、人口では100倍の違いがあります。ところが、どちらも山の占める面積が大きいという点が共通しています。
神戸市の面積に占める山の割合は4割、佐用町は8割です!
そして、その山が管理されていないことが問題となっています。
土砂災害を防ぐために
台風や集中豪雨になると、斜面が崩れてしまう「土砂災害」によって、人命や建物に被害が出ます。じつはこれ、山が適切に管理されていないことが原因で発生したりします。
本来、木々が適切に管理されていれば、日光が地表まで届き、地表に生えている草が育っていきます。この草が土に根を張ることで、水を蓄えたり、土砂が流れ出すことを防ぐのです。
ところが、適切に管理されておらず、放置されたままだと、地表まで日光が届きません。すると、下草が成長できず、土がむき出しになります。
すると、雨によって土が流れ出したときに、大規模な土砂崩れにつながるのです。
負のスパイラルに陥った山林
山の中の木が多すぎる状態だと、一本、一本の木に日光が十分に当たらず、木材として利用できるはずの太いスギやヒノキが育たなくなってしまいます。
なぜ、こんな状況になってしまったのでしょうか。それは、個人が山林を持っているケースが多いからです。
昭和30年代までは、山林は価値ある財産でした。木を切り出して薪や炭の燃料に使うほか、柱や板などの建築材に加工することで、収益をもたらすからです。
ところが、安い外国産の木材が輸入されるようになると、国産の木材が全く売れなくなりました。石油やガスのほうが便利なので、薪や炭を燃料とすることもなくなりました。
すると、わざわざお金をかけて、収益をあげられない山林の管理をしなくなり、ほったらかしになります。
やがて、木を切り出す林業事業者が減ってしまいます。そうすると、木を切ってほしいときに頼める人もいなくなり、ますます管理できなくなるという、まさに負のスパイラルです。
ですが、管理されていない山が増えると、土砂災害のリスクが高まってしまいます。
山の所有者にアンケート
佐用町では、山を所有している人にアンケートをして、どう考えているのかを聞いてみました。
結果は、管理状況を聞くと所有者の約80%が「何もしていない」ということでした。「管理できると思う」と答えた人は16%です。しかも、かなりの割合で、「町に山の管理を任せたい」「所有している山を手放したい」と答えています。
私も、実際に電話をしていると「先祖から山を相続して、固定資産税は払っているが、どう管理すればいいかわからない」という人が多いことに驚きました。
日本は国土の67%が山で、そのうち57%が個人の所有です。そう考えると、個人が所有している山をどのように管理していくかという問題は、佐用町だけではなく、日本全体の問題であるように思います。
自治体が山を引き取る?!
そこで現在、佐用町では、町が山を引き取るという取組みを実施しています。しかも引き取る条件がかなり緩いのです。たぶん、こんなことをしている自治体はないと思います。
2022年度にスタートして、その年だけで105件、250haもの山を引き取りました(買取:67件、寄付:38件)。すでに2023年度は、168件、500haもの申請が寄せられています。合計で750haということは、甲子園球場でいうと194個分です。
引き取った山林については、今後、町で適切に管理し、有効活用できるように色々と方策を考えています。
じつは私も、佐用町に派遣が決まるまで、佐用町という名前すら知りませんでした。ですがいま、山の保全に向けた先進的な取組みを勉強させていただいています。
私と同じようにこの記事を見て、初めて佐用町を知った人も「佐用町すごい」と見直していただけたのではないでしょうか。
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