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変わると変わらないが入り混じる わたしが育った「垂水」の街

神戸市の西の端にある垂水区。
わたしはここで生まれ育った。

阪神・淡路大震災の後のかすかな記憶。
向かいの淡路島へ伸びていく大きな吊り橋。
それを見届けるための宇宙船みたいな観光タワー(今はもうない)。
謎の人物が眠る前方後円墳に、閉ざされた洋館。
磯風が吹き付ける漁港と、身動きが取れないほど賑わう市場。
丘の上に唐突に現れる巨大な迷路(これももうない)。

「ただの住宅地」「よくあるニュータウン」にはないダイナミックさが垂水にはあった。
でもそれは昔の話。

90年代の頃に比べれば、今の垂水はものすごく静かだ。
まず最後の最後まで残っていた市場が昨年姿を消した。
さらに海辺のアウトレットモールが一時休館。
街のアイデンティティでもある春の風物詩「いかなご」もここ最近は不漁。
2023年の垂水は、日々の営みの中で「沈黙」の期間に入っている。

でも、このまま色褪せていくわけではないらしい。
垂水は変わっていく。
再開発の足音が少しずつ、少しずつ大きくなっていく。
新しく変わる街を受け入れられるかどうかはわからないけど、まぁ、とりあえず見に行ってみよう。
そんな気持ちで夏の垂水を訪れた。

垂水駅を降りる瞬間、思わず咳き込むほどの潮風がぶわっと舞い込む。
「帰ってきたなぁ」と思う。

駅前西側のイオン垂水(昔のジャスコ)は、クリームとエメラルドグリーンの開放的な色合い。
そこに黄色の山陽バスが加わると陽気さが増す。
垂水では神戸市バスより山陽バスのほうが多い。

ちなみに、駅前の東側もこんなに鮮やか。
地元にいた頃は何も思わなかったけど、帰ってくるたび「カラフルすぎん?」と思う。
でもこの感じこそが他の区と違う「垂水っぽさ」なのだ。
晴れの日に写真を撮るとそれがよく分かる。

再開発事業「リノベーション神戸」がすでに垂水でも始まっているというので、見てきた。
ここは駐輪場になる予定。

別の角度から見るとこんな感じ。

垂水きっての観光地、「五色塚古墳」の主張も忘れない。
古墳って英語で「tumulus (テュムラス)」っていうんだ……。

3年後には区役所の向かいに図書館ができるらしい。今の2倍の広さになるとか。

今日は垂水駅西口のロータリーから山陽バスに乗る。
バスの窓から外を見ると、水の中に街があるかのような感じがする。

10分ほど揺られて着いたのは、垂水区の南西にある星陵台。
垂水区の中でも特に坂道だらけのエリアだ。

ここまで来るといよいよ南ヨーロッパと錯覚しそう。

そこから舞子駅方面へと南下する「サンライズ通り」と呼ばれるエリアへ。
昔ながらの店が並ぶ。
パン屋の「ボン・ドール」は移動販売もしていたから、聞いたことある人もいると思う。

今日の目当てはここ、「喫茶スイス」。
「行ってよかったな」と思うカフェは多くても「何回でも行きたい」と思う店は少なかったりする。
わたしにとってはスイスがそれ。

まず見てほしいのがこのショーウインドウ。

そしてこの入口。

極めつけはこの内装!
もう、迫力がよそと違う。
レトロで味のある店はたくさんあるけど、スイスは入った瞬間に圧倒される。
なのに格式張った装いはなくて、親しみやすさすらある。

メロンクリームソーダを飲みながら、倒れそうなほどに暑い夏の街並みを眺めた。
スイスはケーキも軽食も美味しい。
そして何よりご夫婦の接客が心地いい。
駅前の老舗喫茶「ブラジル」と同じく、永遠に続いてほしい名店。

坂の上からは海が見える。
小さいときからこんなに身近に海があったんだ、と思うとまぶたがじんわり熱くなる。
「その程度で泣く?」と思うかもしれないけど、海は時々わたしを泣かせる。子どもだった頃も、大人になった今も。

こうやって街中で水平線を眺められるのも垂水のいいところ。
車が通る時以外は風の音だけ。

そのままバス道を通ると、またこの看板を見つけた。
ここにあった垂水体育館はすでに移転していて、新たに医療施設ができるらしい。

別の角度から見た景色。
看板の長さから、けっこうな広さになることがわかる。

最後に、国道2号線を渡って海の方へ。
休館中のマリンピア神戸の様子を見てきた。

「一時閉館中」の文字。
壁が一面に並び、少し近寄りがたい雰囲気。
……のはずなのに。

ここに立った途端、鳥肌が立つような懐かしさを覚えた。

マリンピアができる時もこんな感じじゃなかっただろうか。

90年代の終わり。
復興で少しずつ消えていったプレハブ。
世紀末の大予言。
あの日、海水浴場で流れていた夏の歌。
強烈な陽射し。
容赦のない潮風。
遠くに見える、オープン間近のアウトレットモール。

途切れたように見えて、あの頃から全部繋がっていた。

四半世紀前の賑わいとは比べようもない。
でも、帰って来られる場所がある。

みんな生きている。
街も。
自分も。
もう、そのことを当たり前だとは思わない。

街歩きを終えて垂水駅まで戻ってきた。
新しさや綺麗さもいいけど、何より安全な街であってほしい、と願う。
再開発の看板をもう一度眺めて、垂水を後にした。

また何度でも帰ろう。

<この記事を書いた人>
こもりあやみ /イラストレーター、神戸の記事を書く人
神戸市垂水区出身。2023年、西宮市から神戸市に生活拠点を移す。インターネットでイラストを発表する傍ら、noteマガジン「STAY KOBE」を連載。コロナと再開発で変わりゆく神戸の街を見つめ、反響を呼んだ。
好物は神戸人おなじみの味噌だれ餃子。

こもりあやみnoteアカウント

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