戦地ウクライナから日本へ 現地IT企業が神戸の見本市に出展する理由
きょうと明日、ポートアイランドの国際展示場で「国際フロンティア産業メッセ」と呼ばれる見本市が開かれています。
フロンティアという名のとおり、先端技術の紹介や新製品の展示を中心に、セミナーや交流会が開かれ、西日本最大の展示会として、毎年たくさんの人が集まります。
会場で、例年にないブースを発見しました! ウクライナの企業12社が出展していたのです。
ロシアによる侵略で、激しい戦火のなかにある国。どうしてこんな非常事態のなかで、日本で商売をしなければならないのか? と思いました。
そこには、とてつもない苦労のなかで、したたかに生きていく、ウクライナの人たちの本当の姿が秘められていました。
西部の大都市、リビウ市長が訪日
ポーランド国境からわずか70キロ、ウクライナ西部にある都市リビウは、人口75万人(ロシア侵攻前の2020年現在)の歴史ある美しい街です。オーストリア帝国、ドイツ、それから旧ソ連に統治下になったことから、さまざまな文化が入り込んでいるという特徴があります。
同市のアンドリー・サドビー市長が昨日の午後、神戸市役所を訪問。玄関ではたくさんの職員が拍手で迎えました。苦境のなかで訪日した彼をねぎらいたいと、誰もが思いますね。
サドビー市長に会った久元喜造市長は、
「昨年4月、同国のIT企業などが戦火のなかでビジネスを続けていて、世界各国との接点を求めているのを知った。そこで、フロンティア産業メッセの活用を考えた」
と、今回、神戸市側から強く働きかけたことを明かします。一方で、サドビー市長は今のリビウの状況を生々しく説明しました。
ですが、戦時中の国から来たとは思えない、サドビー市長の笑顔が心に残りました。
ウクライナと神戸の関係
ですが、どうしてリビウの市長は神戸に来たのでしょうか?
じつは神戸とウクライナ、ロシアが戦争をはじめる前から深い関係があったのです。
ウクライナは優秀なIT人材を輩出する国として知られていました。国内だけでなく米国シリコンバレーでも活躍する人もいます。
そんななか、神戸市はウクライナと神戸の企業同士のビジネスマッチングを進めます。とりわけ、中小企業のDX促進に役立つと考えたからです。ところが、ロシア侵攻でそれがとん挫。
ですが、昨年4月に開かれたオンラインでのセミナーに両国の企業が参加。8月にはウクライナのソフトウエア開発会社が神戸に拠点を置きます。
とりわけリビウは、同国で「IT企業の首都」と呼ばれ、約4万人がIT関連に従事しています。こうして、今回の見本市への出展とリビウ市長の訪問につながったわけです。
国際フロンティア産業メッセで
ウクライナの企業が出展している場所に近寄ると、いきなり女性が可愛らしい「靴下」を私に手渡してくるのです。
あまりに唐突だったので、「もしやコレは靴下の押し売りか〜」と思いきや、違っていました。
この商魂たくましそうな彼女、アナスタシアさんは、ハルキウにある「シグマ・ソフトウェア」というIT企業の方でした。
同社は、製造業や流通業の管理システムの開発・管理、さらにサイバーセキュリティを得意としています。
で、なぜ靴下かというと、取引先などへのお土産用を持ってきたということでした。というのは、顧客の9割が欧州と北米で、特に北欧のお客さんには靴下が喜ばれるらしいです。
ハルキウといえば、誰もが知っている激戦の地。なので、同社はいまリビウの拠点を移しています。ただ、彼女が何度も「ハルキウの会社」だと紹介してほしいと言っていたことに、自分たちの街への誇りを感じました。
最後に「日本の会社とも取引をしたい」としっかりと話していました。
遠い世界の戦争を、身近に体感
戦争が始まる前は、ウクライナとの経済交流は神戸側にメリットがあると考えられました。ところが今、同国の産業基盤が疲弊しています。
戦争という極限状態でも、今日を生きて、明日への希望を持ち続けるのに、ビジネスを続けなければなりません。だから、日本での展示会にチャンスを求めたわけです。
しかもITなど先端分野は、海外に活路を見出すのが正解です。戦争がいつ終わるのか分からないからこそ、ビジネスの継続が大事になってきます。
そう思うと、きょう目の当たりにした本気な姿に、遠く離れた戦争をとても身近に感じました。
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