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神戸市が、大学の若手研究者に“投資”する理由

へぇー!神戸市って、ほんまにいろんなことやってるねんなぁ・・・。

感嘆符で記事を始めちゃってすみません、広報戦略部ライターのゴウです。

フリーランスの私が役所の広報に関わり始めてもうすぐ半年。記事を一つ書くごとに「こんなこともしてるのか」「こんな部署があるんや」と勉強になりますが、今日もそれをしみじみと感じました。

今日のテーマは、「大学発アーバンイノベーション神戸」です。

大学発アーバンイノベーション神戸とは?

「大学発アーバンイノベーション神戸」をすんなり理解するには、「大学」がつかない「アーバンイノベーション神戸」から語らなくてはいけません。

「アーバンイノベーション神戸」とは、行政とスタートアップ(成長型IT起業家)がタッグを組んで、地域課題の解決に向けて動く仕組みのこと。2017年度に神戸市が全国で最初に始めました。

たとえば、神戸市が「区役所の窓口を迷わないように案内したい」という課題を出せば、スタートアップが斬新なアイデアやITテクノロジーで解決に取り組むというものです。

この取り組みが注目され、2019年度からは同じ仕組みを他の自治体が取り入れ、「アーバンイノベーションジャパン」という大きな枠組みができました。

今日のテーマである「大学発アーバンイノベーション神戸」は、スタートアップを大学に置き換えたバージョン。神戸市内には23もの大学・高等教育機関があるので、その英知を地域に生かしていただきましょう!というわけです。

ここからは、「大学発アーバンイノベーション神戸」を「大学発UIK」と表記しますね(Urban Innovation Kobeの略)。

大学発UIKの特徴

大学発UIKは、2020年度から始まった全国初の取り組みです。地域課題の解決に向けて研究する若手研究者に、神戸市が研究費を助成します。いわば研究への“投資”です。

助成金額は、一般研究は上限300万円、民間企業との連携型研究には上限1200万円です。これまでの3年間で、45件の研究が採択されました。

対象となる大学は、神戸市近郊に立地する48の国公私立大学。神戸市内だけでなく、阪神間や明石市など周辺地域も含まれているのが太っ腹ですね!

スタートアップのUIKは、神戸市側が「区役所の窓口を迷わないように案内したい」などと具体的な課題を出すのに対し、大学発UIKでは「地域の課題を解決する」と、なぜかふんわりしています。

これは、研究者の独自の視点と発想で地域の課題を見いだしてもらおうという意図なんだそうです。

神戸大学にて2月9日、これまでに採択された研究のうち、神戸大学の研究者の成果発表会がおこなわれたので、取材してきました。

会場は神戸大学の六甲ホール

どんな研究があるのかな?

この日に成果発表があったのは4つの研究。

◆農業人口が高齢化する中、どうすれば市内農業のIT化、スマート化を促進できるか

◆認知症予防のプログラムの効果検証と社会実装に向けて

◆歴史で重要な役割を果たしたのに、現代では忘れられている江戸時代の灘の豪商「吉田家」をきちんと研究したい

・・・と、視点や発想はそれぞれですね!なかでも私が印象に残ったのは、工学研究科・寺田努さんの「スタジアム体験における自然な混雑緩和に寄与する要素の探索」です。

寺田さんの発表スライドより

スポーツやライブが終わった後って、会場(スタジアム)からの帰路がめちゃくちゃ混雑しますよね。コロナ禍以降、「密にならないように」と会場を出るまでにかなり待たされることも。

その待ち時間が「いやな時間」にならないように・・・というのが本研究です。

研究チームは「待ったらポイントがもらえて、そのポイントをグッズ購入や飲食に使える」というアプリを開発。ヴィッセル神戸の本拠地である「ノエビアスタジアム」で実験したところ、アプリを入れない場合よりも帰宅人口が分散されたのだそうです。

寺田さんの発表スライドより

いやあ、おもしろい!

こんなふうに、大学発UIKをきっかけに「地域課題解決のタネ」がいくつも生まれているのですね。

報告書で終わってはだめ

発表会後半のパネルディスカッションでは、採択された他の研究者や神戸大学の学長らとともに、久元喜造市長が登壇。

「成果報告書を作りっぱなしではいけない。せっかく素晴らしい研究をしていただいたのだから、まず市役所の関連部署で内容を理解する。経済界にも協力いただき、それを社会に実装するのが大切」と、大学研究に“投資”する意義を述べました。

神戸大学の藤澤正人学長が、「研究の意義を知っていただき、最終的には政策につながればうれしい。地域の皆さんに還元されることが一番の社会実装」と言っていたのが印象的でした。

大学って一般人にはわからない難しい研究をしていそう・・・と思い込んでいましたが、考えてみれば行政や企業と同じように、社会をつくる一つの“役割”なんですよね。

最近は「産学官連携」という言葉もよく聞きますが、いつかそんな言葉がなくなるくらい、当たり前に協働できるようになればいいなと感じた一日でした。

<この記事を書いた人>
ゴウ/広報戦略部 クリエイティブディレクター
神戸市在住のフリーライター。ソーシャル経済メディアNewsPicksや、京阪神エルマガジン社のメディアで活動。神戸市の施策を書いた記事が「わかりやすい」とnoteプロジェクトに召喚され、週1日だけ市役所の「中の人」に。役所ならではの用語や作法に「それ何?」とつっこみながら、どうやって役所のお堅い印象を和らげるか、日々頭をひねっている。

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