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神戸のカオスクリエイターがつくりたい「30年後の情景」とは?

すごーくわかりにくいんだけど、でもとても大切な“神戸のワクワク”を考えるイベントがあったので行ってきました。

それは、1月26日に新長田で開催された「30年後の情景PROJECT 文化財のある地域の未来を考えるシンポジウム」です。

主催は「はっぴーの家ろっけん」を運営する、株式会社Happy。

新長田にある「はっぴーの家ろっけん」は、いわゆる老人ホームでありながら、地域の子どもが出入りし、外国人、アーティストなど色んな人が助け合いながら暮らす「介護付き多世代型シェアハウス」。

高齢者住宅とは思えない、カオスだけど楽しそうな記事や映像を、見たことのある方も多いのではないでしょうか。

それにしてもHappyが文化財ってどういうことだろう……? でも、登壇者も

  • 安達もじりさん……NHKドラマディレクター。朝ドラ『カムカムエヴリバディ』、映画『港に灯がともる』

  • 村上豪英さん……東遊園地やみなとやま水族館をプロデュース

  • 前畑洋平さん……産業遺産コーディネーター

  • 前畑温子さん……写真家、産業遺産探検家

  • 糸谷謙一さん……漁師。兵庫運河の再生プロジェクト

  • 山崎正夫さん……木材コーディネーター。六甲山材のブランディング

  • 岩本順平さん……新長田在住の写真家・プロデューサー

  • 西本孝之さん……古い建造物をホテルや結婚式場に再生

と、よく見るお名前もあったりして、よくわからないけどおもしろそう。

どんなイベントだったのか、広報戦略部ライターのゴウがお届けします。

Happy代表の首藤義敬さん自身が「わかりにくいイベント」と言うくらいなので少し説明が長くなりますが、最後まで読むと納得していただけるはずです。


なぜ「文化財」なのか

役所らしく事業の枠組みをお話しすると、この「30年後の情景PROJECT」は大きく3つの柱があります。その3つとは

  1. 今回のシンポジウム

  2. 写真展

  3. インバウンド対応のユニバーサルツーリズム(今回は来年以降の販売に向けてのモニターツアー)

です。プロジェクト全体で「神戸の水」をテーマとし、兵庫区の烏原(からすはら)貯水池、湊川隧道、兵庫津がツアーの舞台となります。

ちょうどHappyは少し前から、新規事業として烏原貯水池の旧事務所棟を、地域の交流拠点として整備しつつあるんですって。

で、貯水池の立ヶ畑堰堤(たちがはたえんてい)が国の登録有形文化財なこともあり、文化庁の「全国各地の魅力的な文化財活用推進事業」にも採択されました。

そもそも、なぜやりたいの?

「文化庁から予算がついたのはわかった。でも、そもそもHappyはなぜこの事業をやるの?」という疑問は払いきれません。

そこで、首藤さんに聞いてみました。

ご存じのように、ことしは阪神・淡路大震災から30年ですよね。被害の大きかった新長田の復興事業も、昨年ようやく完了しました。

首藤さん自身、新長田の復興の経緯を見ていて苦い思いを抱いていたそうです。ところが、ふと「あのとき復興を主導した大人って、今の自分(39歳)と同世代やん」と気づいたのです。

「もっと考えて町の今を創って欲しかったんですけど・・・」
今まで先輩達に対してのネガティブな本音。
それがブーメランのように自分に突き刺さった気がした。

そーいえば、30年先の事なんて一度も考えたことがない。
このままじゃ、30年後の自分と成長した子どもに
「いや、ちょっとは考えとけよ」って怒られる気がした。

首藤さんのnoteより引用

こうして「30年後の未来を考えていきたい」と思うようになったとのこと。

詳しくは、首藤さんのnoteをご覧ください。

ふだん福祉の現場にいる首藤さん。「本質的なケアができたな」と感じるのは、「その人の過去を深掘りできたとき」だと言います。

今の体調や症状を把握するだけでは薄っぺらくて、どこに育った、どんな仕事をしてきたなど、その人が歩んできた歴史を踏まえてこそ、いいケアができるのだとか。

だから神戸の未来を考えるには、まずは過去からしっかり深掘りしたい。

「神戸って海と山が近くてコンパクトな街だよね、ってよく言うけど、それについて詳しく知らないなと思ったんです。だからまずは神戸の『水』を考えてみたいなって」

ふむふむ。ようやく「理解」の2文字が、体に染みわたってきましたよ。

ユニバーサルツーリズムで世界を獲れる

それでなぜ烏原貯水池なのかというと、以前からHappyでは高齢者や体の不自由な人を連れて、よく烏原貯水池に「おでかけ」していたのだそうです。

私、烏原貯水池ってもっと山奥にあると思っていたのですが、兵庫区平野町の祇園神社や、みなとやま水族館(NATURE STUDIO)のすぐ北側にあって、すごく街が近いんですね。

烏原貯水池(撮影:岩本順平)

施設から車で20分くらいで行けて、空気も景色もいい烏原貯水池は絶好のおでかけスポット。

体調が不安定だったり体が不自由だったりすると、一般的なツアーに参加するのは難しいですよね。でも福祉のプロであるHappyだからこそ、そんな人たちへのサポートもばっちり。

それが亡くなる前の最後のおでかけになったりすると、家族にとってはそこが「聖地」になる。文化財はとくに社会全体で残そうとしているものだから、そこが思い出の器になっていくのではないか……。

「施設にいる高齢者だと、移動は30分~1時間が限界。車で30分で海にも山へも行ける神戸は、ユニバーサルツーリズムで世界を獲れると思うんです」

なるほど! Happyがやりたいこと、やっとわかりました。

事業の柱の一つ「インバウンド対応のユニバーサルツーリズム」は、外国人観光客がワラワラ押し寄せて……のイメージではなくて「国籍も健康状態も気にせずどんとこい!」という意味なのですね。

残したいし、つくりたい

プロジェクトの背景や目的をようやく理解したところで。

そんな首藤さんの思いを受けてシンポジウムに集まった神戸のプレーヤーたちは、どんな意見を出したのでしょうか。

会場の植物は烏原貯水池(Happyの管理地内)から持ってきました

神戸を舞台にした映画を撮影した安達もじりさん
「神戸はちょっと歩くと景色が変わる。そしてそこには人の息づかいがある。たくさんの色がある街だと感じます。いい意味でモザイク」

湊川隧道のツアーをしている前畑温子さん
「食はリピーターを生むので、ツアーのときには必ず商店街などの地元グルメを入れます。感想も『湊川隧道よかった!』ではダメで、『あの街よかった!』と言ってもらえるような内容を心掛けます」

東遊園地やNATURE STUDIOの村上さん
「『残したい、残したい』だけではダメだと思うんですよね。きっと神戸が一番輝いていた頃って、新しいものをどんどん取り入れていたときだと思うから」

「わかりにくいイベント」だけあって、いろんな方向からいろんな意見が出たのですが、とくに村上さんのコメントにハッとしました。

ガリバートンネルとか古い高架下の店舗とか、本当は残ってほしかったけどなくなっちゃう……と寂しい気持ちになるのは仕方ないけれど、いつのまにか保守的になっていたのかもしれない!

新しいものをおもしろがって取り入れる、神戸の風通しのよいDNAを取り戻さなきゃ。残すだけじゃなくて「つくる」が大事なんだ、と感じました。

久元市長の大胆発言×2

実はこのイベント、久元喜造神戸市長が聴講していました。イベントの終了間際、首藤さんに意見を求められた久元市長は

「僕ね、ダム嫌いなんですよ」

いきなり大胆発言! 会場は騒然です。

「僕は(北区の)山田中学に通ってて、山田川でハヤ(魚)を釣ってたんです。いい場所やったんですよ。それが吞吐(どんと)ダムになってしまった。だからダムが嫌いなんです。

でもなぜか烏原貯水池は子どもの頃から好きで、あそこをダムだと思ったことがない。どっちもダムなのに、僕の中では吞吐ダムとは違う存在。

つまり、人によって大切に思うものが違うということです。でもみんな大切に思うものがバラバラだと合意できないですよね。だからそれは、語り合うしかないと思う。

吞吐ダムも、神出山田自転車道を整備してBE KOBEモニュメントができて色んな人が関わってくれることで、30年後には愛情を持てるようになるのかもしれない」

吞吐ダム脇に立つ木製のBE KOBE

よかった、ホッとしました。自然の中で遊ぶのが大好きだった子ども時代の市長が想像できますね。

実は、大胆発言はもう一つありました(笑)。

文化庁から助成してもらっているので、シンポジウムの事業報告書を出さなければいけません。意見があっちこっちを向くので、壇上が「報告書どうしましょうか(笑)」みたいなトークになると、久元市長が

「神戸市も補助事業などで報告書を求めることがありますけど、綿密なデータや調査結果を求めなければいけないもの以外は、語り合ったらじゅうぶんじゃないですか。

今日は神戸市の幹部も何人かいるでしょうけど、報告書を求めるのは最低限にしませんか?」

会場は拍手喝采。さて市長、言っちゃいましたけど大丈夫ですか……?

首藤さんは最後に「今日は誰も、建物や山や海の話はしてないですよね。みんな人の話ですよね」と言い、未来に向けて考えるのは「風景」ではなく「情景」であることを強調しました。

写真展で新長田をぶらり

シンポジウムは終了しましたが、2月5日(水)まで、各所で「30年の情景写真展」が開催されています。新長田エリアは2か所です。

■丸五市場内のSpiceup(スパイスアップ)

2階もありました

展示されているスパイスアップの向かいには、映画『港に灯がともる』のロケでも使われたそばめし屋さんが。

私の取材にも必ずグルメがついてきます(笑)

■庄田町の長屋(長田区庄田町1丁目8-7)

*スマホ地図には住所を入れてください!

商店跡をモダンなサロンふうにに改装した空間。新長田の下町なイメージとはちょっと違う、近代モダンな感じが意外でした。

こちらも2階があり、1階と2階両方見えるポイントがお気に入り

「新長田はディープでおもしろい」とよく聞くし興味があるけれど、何もないとわざわざ行かないな……という方は、この写真展を機にぶらり歩きしてみてはいかがでしょうか。

実は三宮や兵庫区にも写真が展示されています。新長田以外の展示スポットは公式ページからご確認ください。

この「30年後の情景PROJECT」は今回だけでなく、毎年、30年後までずっとやっていきたいと言う首藤さん。

5年後、10年後、この「わかりにくいイベント」が何かしらの形になり始めているのか、私たち市民が「まち」を見る視点に変化があるのか。楽しみに見守りたいと思います。

今後のプロジェクトの動きは、こちらで発信するそうなので要チェックです。

<この記事を書いた人>
ゴウ/広報戦略部 クリエイティブディレクター
神戸市在住のフリーライター。ソーシャル経済メディアNewsPicksや、京阪神エルマガジン社のメディアで活動。神戸市の施策を書いた記事が「わかりやすい」とnoteプロジェクトに召喚され、週1日だけ市役所の「中の人」に。役所ならではの用語や作法に「それ何?」とつっこみながら、どうやって役所のお堅い印象を和らげるか、日々頭をひねっている。
旅とバーとパンダが好き。

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