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ブラジル移民の聖地が神戸に?! 今も続く日系子孫たちの来訪

神戸にブラジルからの旅行先として、よく知られている場所があります。ブラジルから日本まで飛行機で24時間以上かかるのですが、毎年たくさんの人が訪れます。

それが、異国情緒あふれる異人館で知られる北野エリアにある「海外移住と文化の交流センター」と呼ばれる施設です。

国内では知名度はありません。なのに、なぜブラジルをはじめとした中南米の人たちが、なぜここを訪れるのでしょうか?

この記事では、神戸とブラジルとの関係を深掘りしてみたいと思います。

祖父の由来を探すメキシコ人

今年の4月、メキシコで俳優をしているバルバラ・モリさんとそのマネージャーが、ここを訪れました。来た理由を聞くと、彼女の祖父が昔過ごしたので、訪れてみたかったとのことです。

実はバルバラさんの祖父は日本人。100年近く前にブラジルにわたりました。孫にあたる彼女自身は今、メキシコに住んでいますが、彼女は日系3世にあたります。

記録によると、祖父は16歳のときに、兄ともう一人の謎の女性と、あわせて3名でブラジルへ渡航しました。

「自分がほとんど知らない祖父のことを知りたかった。そして、この謎の女性は一体誰だったのか…」

そんな思いが、彼女に神戸へと足を運ばせたのでした。

日本で最後に過ごした街、神戸

今から100年以上前の20世紀はじめから、日本からブラジルへの移民政策が国家レベルで進められました。

というのはちょうどこの頃、ブラジルでは奴隷解放宣言が行われて、コーヒー農園で働く人が不足。逆に日本では明治開港からの経済発展が続いて人口が増え続け、食糧問題を抱えはじめたからです。

さあ行かう 一家をあげて南米へ

初めてのブラジルへの移民船「笠戸丸」が、1908年に神戸を出港。781人を乗せてた船は、サンパウロにほど近いサントス港へ向かいました。

50日間の船旅の先にあるのは、新天地での生活のハズでした。

ところが、コーヒー農園などで働く生活には、困難が待ち受けていました。というのも、奴隷の代わりとしての労働力であったので、生活環境が劣悪で、逃げ出した人もいたそうです。

それでも、国策である移民政策に変更はなく、次々とブラジルへと日本人が送り出されていきました。

そんななか、1928年に「国立移民収容所」が神戸に開設。これが今の「海外移住と文化の交流センター」です。

当時、全国から中南米に旅立つ人たちは、神戸の国立移民収容所で、7-10日ほど滞在します。その間に、パスポート・ビザ等の出国手続をします。さらに、健康診断や予防接種を受けて、ポルトガル語や現地事情を学んだそうです。

出発の日が来ると、移民船に乗ってブラジルへと向かいます。もし日本に帰りたくなっても、簡単には帰ってこられません。六甲の山々を眺めながら、涙ながらに、異国の地に旅立ったと伝えられています。

謎の女性の正体が判明

メキシコからやってきたバルバラさんの祖父もその一人。国立移民収容所の建物を改修したのが「海外移住と文化の交流センター」で、1階と2階は「移住ミュージアム」として一般開放されています。

日本とブラジルとの交流を進めている「日伯協会」の人たちに案内されながら、展示を見て回ったバルバラさん。再現された移民たちが過ごしたベッドがある部屋、祖父が過ごしたであろう場所を見て、彼女は何を感じたのでしょうか。

そんな彼女を見守っていた日伯協会の人たちが一肌脱ぎます。例の謎の女性の正体を探ろうと、彼女が持っている情報をもとに、国会図書館の乗船名簿から、祖父たちの戸籍情報にたどりついたのです。

その結果、祖父とその兄とともにブラジルに渡航した女性は、兄の妻になった人物だとわかりました。さらに、祖父の故郷が、高知であることも判明したのです。

バルバラさんたちは、大感激して喜びました。

そのあと、高知まで足を延ばし、先祖のお墓に手を合わることができたそうです。

神戸とブラジルの深ーい関係

国立移民収容所(神戸移住センター)は1971年に閉鎖されるまで、約20万人の移民を送り出しました。

ブラジルでの生活に耐え切れず、逃げ出す人もいましたが、バルバラさんの祖父のように、ブラジル社会で力強く生き、大きな貢献を果した人もたくさんいました。

今や、270万人以上の日系人がブラジルにいて、日本とブラジルを深く強くつないでいます。

そんな関係が、現在でも1か月に10組以上の中南米の人たちがここを訪れる理由でした。

100年近く前に、彼ら彼女たちはどんな思いでここで過ごしたのか。そんな思いを感じられるように思います。

ブラジルコーヒーと歴史を堪能

今年はちょうど、神戸とリオデジャネイロが姉妹都市になってから55年。それを記念した「コーヒーがつなぐブラジルと神戸」という特別展が、ここで行われています。

それだけではありません。神戸市内の60以上あるカフェで、ブラジルコーヒーを楽しめます。お店では神戸とのリオとのつながりをデザインしたオリジナルステッカー(全4種)がもらえ、それを海外移住と文化の交流センターにもっていくと抽選でプレゼントが当たります!

カフェでコーヒーを飲んで、そのあと歴史の流れを感じられる場所に行くというのは、いかがでしょうか。

〈この記事を書いた人〉
けんこう/市長室国際課
2024年4月から国際課勤務。考古学を専攻し、茶道をたしなむなど日本文化が好き。白ごはんも好き。ブラジルは行ったことがないけれど、一度どっぷりつかってみたい国のひとつ。白ごはんと離れるのはつらいけど、長期休みをどこかで画策中。旅行は好きだけどインドア派! 習っている鳥観図で世界地図も書いてみたいなぁ。

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