副業で「子どもの貧困」に挑む神戸市職員の手記
いつの間にか「子どもの貧困」が日本で大きな問題になっています。
神戸市で2021年に行った調査によると、中学2年生の13.7%が「相対的貧困」の状況にあるということが分かりました。
と言われても、何のことか、さっぱり分りませんね。
この「相対的貧困」の状況というのは、今回の調査では夫婦と子ども二人の家族であれば、世帯年収が概ね325万円未満をいいます。ただし、家族の人数によって基準となる年収が変動します。
年収325万円というと、ボーナスなしで考えると月27万円です。手取り額でいうと23万円くらい。家族4人が暮らすには、物価が上がるなかで限界を越えています。
神戸市でも、そんな水準で暮らしている子供たちが、7人に1人の割合でいるのです。
「神戸みらい学習室」の誕生
そうした子どもたちは、もし学校での授業についていけないと思っても、補習塾に行くことも難しいです。進学塾に行こうとしても、大きなハードルがあります。
そこで私は、そんな子どもたちが、学校ではなく、学習塾でもなく、無償で学習のサポートを受けられる仕組みをつくれないのだろうかと考えました。
2017年4月、神戸市職員の有志7人が集まって、経済的な理由などで塾に行けない中学生向けの教室「神戸みらい学習室」をはじめました。
いまでは西区にある学園都市校と東灘区の住吉校で、毎週日曜の13時30分から17時までやっています。
講師は、大学生・院生が中心ですが、元教員や自治体職員などの姿も。全員がボランティアです。
中学生たちは、それぞれの教材を持ち込んで自習します。わからない箇所があるなどヘルプが必要になれば、講師たちが教えてくれるという、ゆるい個別指導のような形をとっています。
毎回、学園都市校だと約30人、住吉校では10人ほどが参加しています。
落ち着いた静かな場所で、テレビやスマホのような誘惑から切り離されるので、自宅とは違って、集中して勉強ができます。
全国に先駆けて公務員の副業を
私のような公務員がこの事業をするにはハードルがあります。
というのは、公務員は副業ができません。
無償のボランティアならOKなのですが、副業かどうかは人事当局が判断します。もし自分では大丈夫と思っていても、あとで人事当局がダメだと言えば、懲戒処分になります。
すると、問題がないはずの交通費だけが支給されるボランティアであっても、職員らは参加をためらいがちになります。
そこで、2017年に神戸市では、職員が副業をやりやすいように「地域貢献応援制度」が導入されました。
地域の課題を解決するなど要件を満たしていれば、人事当局から副業をしていいよと、前もってお墨付きをもらうものです。
私は無償のボランティアなので、この制度を使っていません。
ですが、神戸市役所で働いていると、いろんな地域の問題に個人としての意見を持つことがあります。仕事とは離れて、自ら行動したい思ったときに、その気持ちを支えるこの制度は、とても良い仕組みだと思います。
神戸市も学習支援事業を開始
私が2017年にはじめた教室では、相手できる中学生の数が限られます。
そんななかで2021年から、神戸市は学校の外で勉強するチャンスを逃している中学生への学習支援をしている地域の団体に、運営費の一部を補助することをはじめたのです。
6つのNPO法人や社会福祉法人などが補助の対象で、市内の各地で学習の場ができました。
各地域の団体が役割を担っているこのやり方が、個人的には気に入っています。
というのは神戸では、阪神・淡路大震災以降、地域の自主的な活動でたくさんの困難を克服して、絆が生まれました。
地域の大人たちが子どもらを見守るこうした取り組みは、神戸のシビックプライド、「BE KOBE」が表現する「神戸の一番の魅力は『人』である」という理念にも重なるからです。
最初は点で、広がりのある面に
今では、前述の神戸市の支援を受けている6団体を含めて、中学生に学習支援を行っている15団体からなる「神戸学習支援協議会」という横のつながりもできました。
もともとは、それぞれに地域ごとに根差した団体なので、考え方も異なります。それが「子どもたちへの学習支援」というテーマで結びつき、垣根を越えた意見交換をしています。
こんなふうに地域それぞれの活動が点から線に、線から面となっていく。街全体が変わるイノベーションというのは、こうして生まれるのではないでしょうか。
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