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書道を世界遺産にしたい!神戸の書家に「名誉市民」を贈呈

きょう10月23日、神戸市役所にて、ある称号の贈呈式がおこなわれました。

その称号とは……「神戸市名誉市民」

受称したのは、書家の井茂雅吉(いしげ・まさきち)さんです【雅号は井茂圭洞(いしげ・けいどう)】。

前列右から2人目が井茂さん

たぶん、神戸市名誉市民という言葉を初めて聞いた方が多いと思うので(私もそうでした)、広報戦略部ライターのゴウがお伝えします。

神戸市名誉市民とは?

神戸市名誉市民とは、神戸市民または神戸に縁の深い方で、公共の福祉や学術技芸の分野で、その功績が卓越する方に贈呈される称号です。

はじめ私は、神戸の応援団としてPRをしてくださる「神戸大使」のことかな?と思ったのですが、それとは別なんです。

今までに名誉市民の称号を受けた方は、以下の9人です。

ええ。みなさんが心の中で思ったこと、わかりますよ(笑)。

市長経験者の他では、文化勲章やノーベル賞の受賞者など、本当に輝かしい功績を残しておられる方々ですよね。

神戸市名誉市民について、詳しくはこちら

書道をユネスコ無形文化遺産へ!

今回、名誉市民称号を受称した井茂さんは神戸出身で、現在も神戸市内にお住まいです。

書道の中でも井茂さんが専門とするのは、「かなの散らし書き」。

散らし書きとは、文字間を空けて書いたり、行の位置をずらしたりしながら散らすように書く手法です。

井茂さんの作品

【右の作品】ほのぼのと 明石のうらの朝霧に 島がくれゆく ふねをしぞおもふ(柿野本人麻呂)

【左の作品】布引の瀧のしらいと 夏くれば たえずぞ人の 山路たづぬる(藤原定家) 

東遊園地には、上皇后美智子さまが阪神・淡路大震災の10年後に神戸を訪れたときに詠まれた歌が、井茂さんの筆によって書かれ、歌碑にされています。

「し」だけで1行を使うところは、まさに「散らし」を感じます

笑みかはし やがて涙のわきいづる 復興なりし 街を行きつつ

「街で出会う人々と笑みを交わし、復興の喜びを分かち合いながらも、それぞれの人が乗り越えた苦労を思うと涙ぐんでしまう」という、あたたかい歌ですね。

歌碑は、震災の慰霊モニュメントを見守るようにして立っています

井茂さんは、日本書道文化協会会長をはじめとする多くの書道団体で要職を務め、2023年から神戸でおこなわれている「日展」の顧問でもあります。

名誉市民称号の贈呈は、2023年に文化勲章を受章されたこともきっかけですが、もう一つ、大きな要素があるんです。

それは、井茂さんは「書道」が文化財として認められるための普及・啓発活動を長年しておられて、ことし文化庁が「書道をユネスコの無形文化遺産に提案する」と正式決定したことです。

ユネスコの無形文化遺産って、「和食」が登録されているアレですよね。

すでに「歌舞伎」「雅楽」「和紙」などが登録されているので逆に「まだなん?」という驚きもありますが、ちょっと昔の日本では書道がもっと生活に溶け込んでいたから、文化財として保存する発想自体が薄かったのかもしれませんね。

久元喜造市長は「わが国を代表する書家である井茂先生に名誉市民を贈呈できることは、神戸市として大きな喜びです。たくさんの若い世代が書道に親しめるようにお力添えをいただければ」とお祝いの言葉を送りました。

ユニークな記念品トリビア

さて名誉市民について調べていると、ちょっとしたトリビアを見つけました。

名誉市民には記念品が贈られるのですが、こちらの記念品、受章者のリクエストを聞いているんですって(もちろん予算の上限はありますが)。

井茂さんがリクエストしたのは、シャツの袖口につける「カフス」です。

神戸市灘区の桜ヶ丘で出土した「桜ヶ丘銅鐸」に刻まれている鷺(サギ)の図柄を見て、頭から尾にかけての曲線が「かな」の曲線と似ていると感じた井茂さん。

②を見てください

「かな」は漢字を崩して生まれたというのが定説ですが、漢字は直線的なもの。

曲線を多く用いる「かな」は、銅鐸の弥生時代から日本人が持っていたやわらかなDNAによるものではないかと井茂さんは考えていて、この鷺の柄をデザインしたカフスをリクエストしたそうです。

(お渡しは後日になるため、写真がないのが残念!)

ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑さんは、神戸のテーラーが仕立てるスーツをリクエストされたそう。

ご本人の思い入れのある記念品を贈呈できるの、ちょっといいですね。

88歳の前向きパワーに胸熱

贈呈後のインタビューで、井茂さんから飛び出す数々の前向きな言葉に圧倒されっぱなしでした。

「書を70年間続けてきたが、そのうち50年は基礎の勉強。あとの20年は自分の思いを作品に表す勉強だと思ってやってきた。やっと最近、思いと作品の差が接近してきたかなぁ」

「もっと自分で納得できるように制作するのが今の夢。夢という言葉は実現しないことに使われがちだが、なんとか実現したい」

「私は『かな』専門ですが、漢字でもなく『かな』でもない、先達とは違うものが書きたい。それをするための裏付けが、やっとできてきたかなぁというのが今の心境。そのために与えられた時間を使いたい」

どうですか。1936年生まれ、88歳のものとは思えない、前しか向いていない言葉の数々。半分の年齢で「まあこれでえっか」と言いがちな自分にグサグサと刺さりました。

言葉の端々から神戸が大好き!という愛が伝わってくる、笑顔がチャーミングな井茂さん。失礼ながら今回初めて存じ上げたのですが、たちまちファンになってしまいました。

井茂さん、名誉市民おめでとうございました。「漢字でもかなでもない」書の作品、お披露目されるのを楽しみにしています!

<この記事を書いた人>
ゴウ/広報戦略部 クリエイティブディレクター
神戸市在住のフリーライター。ソーシャル経済メディアNewsPicksや、京阪神エルマガジン社のメディアで活動。神戸市の施策を書いた記事が「わかりやすい」とnoteプロジェクトに召喚され、週1日だけ市役所の「中の人」に。役所ならではの用語や作法に「それ何?」とつっこみながら、どうやって役所のお堅い印象を和らげるか、日々頭をひねっている。
旅とバーとパンダが好き。

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