お医者さんが首をかしげると出番が来る、研究機関がポーアイに
今年の夏、こんなニュースが放送されていました。「知人にもらった野生のキノコを食べた家族3人が食中毒で救急車で運ばれました。食べたキノコはツキヨタケという毒キノコでした。山梨県によりますと・・」(TBSニュース)
どうして正確にキノコの種類まで分かるのでしょうか。この記事では、このようなニュースの舞台裏をお伝えしたいと思います。
じつをいうと、私が勤務している「神戸市健康科学研究所」がそのカギを握っていました。
自然毒による食中毒とは?
あまり見たくはないですが、お医者さんが患者を前に首をかしげるときがあります。その一つが「自然毒による食中毒」です。
目の前の患者が腹痛を訴えて、下痢や嘔吐、そして手足のしびれといった症状があると、
「この人、食中毒かもしれないな…」
と、お医者さんが思っても、病院での検査で原因を特定することはできません。
そんなときは、まず医師が保健所に届け出をします。保健所は医師と患者から話を聞いて、どんな症状が出てるのか、この数日で何を食べたのかなどを調べて、原因物質を特定しようとします。
というのは、原因がわからなければ、正しい治療や予防ができないからです。ところが、保健所の聞き取り調査でも原因が突き止められないことがあります。
食中毒の原因の一つが「自然毒」です。自然なのに毒ってどういうこと?と思われるかもしれません。ですが、毒キノコやフグの毒を思い浮かべてください。自然界にある健康な植物や動物に毒が存在することがあるのです。
医師や保健所でも「自然毒」の原因物質を特定することができません。
そんなときに私たち、健康科学研究所が「最後の砦」になります。保健所から持ち込まれた患者の血液や尿、吐物、食べ残しの食品など、いわゆる「検体」の検査をします。
ちなみに健康科学研究所では、35の自然毒を判別することができます。神戸市内ではそこまでできる病院や機関はもちろんありません。
フグの毒、テトロドトキシン
フグはおいしいですよね。でも、「テトロドトキシン」という毒を持っています。
そして、フグを食べた人の尿や血液から毒成分を検出できます。 健康科学研究所にあるLC-MS/MSという特殊な機器を使って、イオンの質量などからフグの毒である「テトロドトキシン」の存在が分かるのです。
ヤマイモそっくりだけど球根に毒が
フラワーアレンジメントや生け花などで使われる「グロリオサ」というお花があります。このきれいなお花にも、実は毒があります。
でも、生け花用の球根を食べる人はいないだろうと思いますが、じつはこのグロリオサの球根はヤマイモとそっくりなので、間違えて食べる事例が全国で報告されています。
最近でも研究所に、球根を食べてしまったその食べ残しと、患者の吐物が運び込まれたことがあります。検体からは「コルヒチン」という猛毒を検出。やはり間違ってグロリオサの球根を食べたのでした。
健康科学研究所の道端にキノコが…
こちらは健康科学研究所近くの道端に生えていた白くて肉厚のキノコ。なんかちょっとかわいらしい丸いフォルムです。
これはどうも怪しいと考えた研究員はキノコからDNAを抽出し、配列を調べました。
すると、このキノコは「オオシロカラカサタケ」という毒キノコであることが判明しました。
キノコはプロでも判別が難しく、毒成分が判明していないのもたくさんあります。キノコ本体が残っていれば、毒成分を調べる以外に、DNAを抽出して調べる方法があります。
病院や診療所では正直に!
お医者さん、保健所、健康科学研究所という順番で、自然毒を判別する仕組みになっています。
なので、最初にお医者さんに診てもらったときに、食べたものを聞かれたら、正直に答えてくださいね。
そうしなければ、検体の検査や毒物の判別ができなくなります。正しい情報があれば、最後は科学の力で私たちが、どんな毒物かを調べる体制を組んでいるので… そこはご安心ください。
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