神戸市交通局が「水素バス」を導入したホントの理由
神戸の街を走る「市バス」といえば、緑と白の2色の車体カラーです。この色は1971年に廃止となった神戸市電(路面電車)の伝統を引き継ぎました。市営地下鉄の車両も同じ色使いです。
ところが、全部で486台ある市バスの中で、たった一台だけ、黒を基調に明るい「青」を使った近未来的なデザインのバスが存在します。
それがことし4月、神戸市バスで初めて導入された「水素バス」です!別名は燃料電池バス。車体の天井部にあるタンクに貯蔵した水素と大気中の酸素を反応させて電気をつくりだし、モーターを動かして走行します。
これまで神戸市交通局でバスや地下鉄を整備してきた私ですが、水素バスの導入した理由とその魅力を説明したいと思い、記事を書きました!
「水素社会」のランドマークに
バスといえば、ちょっと昔はディーゼルエンジンが当たり前。そんななか、神戸市バスでは、エンジンにバッテリーとモーターを組み合わせて、燃費を良くして地球環境に貢献しようと「ハイブリットバス」の導入を2012年頃からはじめました。
ですが、走行時にCO2を全く排出しない究極のバスが、二つあります。
一つは、バッテリーで蓄えた電力でモーターを動かして走る「電気(EV)バス」です。もう一つは、水素タンクを搭載しその水素から電気を取り出してモーターを動かす「水素(燃料電池)バス」です。
ところが、両方とも購入費用がとっても高いのです。普通のバスが、2000万円なのに、電気バスは4000万円、水素バスに至っては1億円もします。
宝くじに当たらない限り、こんなバスを導入しようと思わないですね。
だって、公共交通というのは、民間はもちろんですが、自治体が運営していたとしても、バスの購入代金は基本的に乗車料金としてお客様に負担して頂かないといけないので。
ただ、この神戸市公式noteでも何度も紹介してきたように、神戸市は「水素エネルギー」に注目して、めちゃくちゃ力を入れています。
水素を使う燃料電池自動車は、だいぶ前から市販されていて、国の補助金も充実していますが、はっきり言って普及していません。
というのは、燃料電池自動車に水素を充填するステーションがまだまだ少ないからです。神戸市内でも水素ステーションはわずか2カ所です。
ステーションがないから車が売れない、車が少ないからステーションが増えないという「負のスパイラル」に陥っています!
そこで神戸市交通局は、一肌脱ぐことにしました。神戸市みずから、水素で走るバスを買うことにしたのです!
バスは大量の燃料(水素)を使います。毎日走る路線バスだと補給の頻度も多いです。なので、水素エネルギーの使用量はかなりのものです。
しかも、バスはでかいので目立ちます。このバスが走っていると、一目で水素バスだとわかってもらえます。水素のイメージカラーは明るい「青」がよく使われているので。そこで、伝統ある緑のカラーを大胆に捨てたのです。
きっと、たくさんの人に、水素で車が走る時代が来たんだと感じてもらえると思います。
発電能力に課題も、改善に期待
大きな声で言いにくいのですが、じつはこのバス、少し坂道がニガテです。水素バスは、トヨタやホンダがつくっている水素自動車と比較すると、車両総重量が8倍近くあるのに、車の発電装置は1基ですが、バスは2基。そして発電能力も2倍しかないのです。
そのため、長い坂道や急な坂道を走行すると、発電装置に負荷がかかってしまい、発電性能が落ちてしまうのです。ただ、水素バスの技術はまだ発展途上。近い将来、改善されていくと思います。
そこで、水素バスは市バスの7系統(市民福祉交流センター前~神戸駅前)と新港町系統(三宮駅前~新港町)といった、坂道が少ないフラットな路線で運行しています。
車酔いしにくいバスかも?!
水素バスに乗車してみると、静かで驚く方が多いです。バス特有のブルブルブルというエンジンの振動がありません。乗り心地はとても快適になっています。
あと、水素バスは巨大なバッテリーの機能を持っています。もし、地震などで停電になっても、建物の照明などをつけたり、スマホの充電に使ったりできるので、一般的な避難所で計算してみると4.5日分の電力を供給できます。
水素を燃料にして神戸のまちを走るこのバスが、みなさんにとって、カーボンゼロ社会がどんなものかを考えるきっかけになればと思います!
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