ええっ!もしかして、私は歩く産学官連携?
ときどき新聞で「産学官(さんがくかん)連携」という言葉を目にします。なにかキーワードっぽいのですが、何を指しているのか分らないという方がほとんどだと思います。
じつは私は、神戸大学の職員でありながら神戸市役所に出向していて、この「産学官連携」が仕事なのです。しかもその前は、ベンチャー企業など民間で働いていました。まさに、企業=産、大学=学、役所=官を、身をもって体験している【ひらお】が、このちょい難解なキーワードをひも解きたいと思います!
産学官連携ってなぜ必要なの?
1980年代まで日本は、ものづくり大国として世界を席巻していました。ところが、今やITでは米国、製造業ではアジア各国に押されっぱなし。かつてウォークマンがiPod に敗北したのは、単体の製品性能で負けたわけではありません。音楽業界を巻き込んだウェブ上でのコンテンツを準備できなかったからだといわれています。単独の企業のちからだけでは戦えない時代になっているのです。
そんな日本にいま必要なのは、会社や業界といった垣根を越えて、違った分野の技術やアイデアなどを組み合わせることです。「オープンイノベーション」と呼ばれていて、その有力な方法が「産学官連携」なのです。
政府もようやく本腰入れる
ところが、産学官連携はすぐに芽が出てビジネスにつながるとは限らないので、欧米では政府による後押しが盛んです。
海外では一つの案件に1000万円以上の助成をするのがよくあります。ところが、日本だとそのような大型の支援はほとんどありませんでした。日本の縦割り文化の弊害なのでしょうか、「組織」と「組織」の大きなコラボが生まれにくいのが原因なのかもしれません。
とはいえ、最近は国内でも1000万円以上の共同研究が件数と金額ともに増えています。政府が本腰を入れてきたのと、もともと得意だった小規模な研究を続けながら、大型の研究も進んできたのではと思っています。
神戸市で進んでいる産学官連携
それでは、実際にどんな動きがあるのでしょうか?
身近な困りごとを研究の題材に
地域の住民や事業者がかかえている困りごとをテーマに、大学の研究者と民間企業が一緒に答えをさがしだそうとするのが「大学発アーバンイノベーション神戸」です。企業から研究者に資金を支援するのが特徴です。
例えば、神戸市灘区の水道筋商店街で、利用エリアを限定したデジタル通貨の実証実験が行われました。「すいすいコイン」と呼ばれる、5000円あたり1000円相当のプレミアムを付けたデジタル通貨を、882人が利用するという大きな規模の実験です。
利用者にアンケートをとると、この商店街が好きだから使ってみたという人が70%近くでした。さすが地元に愛されている商店街ですね。ただ注目したいのは、数は少ないのですが、プレミアムがなくても利用していたという人がいました。また、これがきっかけで、初めて買い物をした店があるという人もかなりいました。
ということは、商店街が愛されているからこの通貨が使われやすく、逆に使うことでその愛着が深まるということを意味しているのではないでしょうか。
大学生がスマホ教室や空き家整備を
塾や飲食店でアルバイトをする大学生はたくさんいます。そんななかで、小学生とのアウトドア体験、空き家の整備、高齢者向けスマホ教室といった、普通のバイトでは味わえないやりがいのある活動をするのが「KOBE学生地域貢献スクラム」です。参加1回につき5000円と交通費がもらえる仕組みです。
例えば、この事業自体の広報活動も大学生に任せられています。さまざまな活動を現地で取材して、地元紙である神戸新聞に掲載してもらったり、SNSで投稿したりします。
2022年3月に開かれた成果報告会では、学生たちが登壇して活発に議論をしていました。
じつは神戸市に就職したいと思っていた私は、学生時代にこの事業があれば、きっと参加していたと思います。普通のアルバイトでは地域の未来を考える機会はなかなか得られませんから。
あなた自身もいつか主人公に
神戸市は、サイボウズ、P&Gやヤフーなどの先進的な民間企業へ職員を派遣しています。逆に、民間企業からの出向者もたくさん受け入れています。そんな私もその一人、毎日のように業種間のギャップにおどろきながら、いろんなことを学んでいます。
産学官連携というと、何かしら大きくて、ぼんやりした話に聞こえたかもしれません。ですが、やっているのは人と人です。いつの間にか私みたいに、皆さん自身が何かの気まぐれで「産学官連携」を実践する日がやってくるかもしれません。
〈関連記事〉