残せるか? 神戸に伝わる「農村歌舞伎」 子供たちが長唄を体験
歌舞伎、、というと市川團十郎や尾上菊五郎らが、京都の南座や東京の歌舞伎座で演じ、熱狂的ファンがいるイメージですね。
ところが、同じ歌舞伎でも「農村歌舞伎」と呼ばれる伝統芸能が、神戸市北区の谷上のエリアで受け継がれ、今でも演じられているのです。
私自身も北区役所に配属されるまで、まったく知りませんでした。それほど、知名度はありません。
ですが、学校が夏休みに入った7月28日、地元の子どもたちが歌舞伎をする側を体験するイベントありました。
歌舞伎というと、まずは演じる役者をイメージします。ですがそれ以外にも、三味線を奏でる人、大道具をつくる人、化粧をする人たち、さまざまな役割の人たちによる総合芸術です。
今回の体験会は、そのなかでも、ちょっと脇役の三味線の旋律とそれに合わせて歌う「長唄」ともいわれる出囃子に焦点。この役は「パラパラ」という雨の音、「ひゅ~ドロドロ」という幽霊の音といった効果音も担います。それをレポートすることにしました!
北区の農村歌舞伎の歴史
江戸時代から明治にかけて、稲刈りが終わった秋の終わりに、農民たちが楽しんできた歌舞伎が受け継がれてきたのが、「農村歌舞伎」です。
じつは兵庫県、特にこの地域で盛んに行われてきたので、Wikipediaにも北区の農村歌舞伎が特記してありました。
昔の農村歌舞伎を書いた文献を見ると、上演会は夕方から深夜までにもなったそうです。きっと当時の人たちは、お酒を飲んで、語らい笑いながら、「あいつにはあの役がぴったりだ」と言いながら、舞台を見ていたのではないでしょうか。
農村歌舞伎の大きな特徴が、茅葺の建物を舞台としている点です。じつは北区の山田町エリアには、農村歌舞伎の舞台が14か所もあっていたことが分かっています。
今も現役で稼働している舞台として、「上谷上(かみたにがみ)農村歌舞伎舞台」(谷上駅から歩いて20分、花山駅からだと15分)と「下谷上(しもたにがみ)農村歌舞伎舞台」(箕谷駅から歩いて15分)があります。
どちらも貴重な建物であるため、上谷上の舞台は兵庫県が、下谷上の舞台は国が文化財に指定しています。しかも、ただの舞台ではなく、江戸時代の人々の知恵が詰め込まれているのです。
まず、「上谷上農村歌舞伎舞台」では、舞台中央にある縦3メートル・横5メートルほどの演台がグルグル回転して場面転換をする装置があり、「床几回し(しょうぎまわし)」と呼ばれています。
さらに、「下谷上農村歌舞伎舞台」では、花道の一部が回転して、反り橋が現れます。これは全国で唯一です。
長唄を体験した子どもたちは?
この日に参加した子どもたちは約10人。プロの演奏を聴いたり、効果音から場面を当てるクイズをしたり、三味線や鼓の音の出し方を教えてもらっていました。
特に子どもたちが講師のお話を真剣にメモを取りながら聞く姿、三味線や鼓での音の出し方を直々に習っているときの笑顔が記憶に残ります。
三味線や鼓を初めて持つ子どもたち。ですが、10分ほどの体験で参加者みんながきれいな音を出せるようになります。子どもたちの吸収力はすごいと感じました。
たぶん大人だったら、こういう身体を使う技は、すぐには身につかないのではないでしょう。まず、私は無理です…
体験会の終わり際に「この体験会が楽しかった人は手を挙げてください」と講師が聞くと、たくさんの手があがったのは、ちょっと感動です!
舞台に立ちます。子どもたちが!
そしてこの秋、10月27日には演者体験会の参加者が、大人の役者と一緒に舞台に立って、体験会で教わった役割を果たします。
場所は神戸電鉄・谷上駅から20分、箕谷駅から15分にある「上谷上農村歌舞伎舞台」です。
それ以外にも、9月から10月にかけて、演者の体験会やこの記事で紹介した場面展開をする舞台などの見学会も予定しています。
農村歌舞伎は、あまり知られていないだけでなく、高齢化で存続が難しくなってきています。さらに昔は、地元の小学校で「こども歌舞伎」を演じていたのですが、そんな習わしもいつの間にかなくなってしまいました。
ですが、この記事で紹介した新たな息吹を感じさせる「農村歌舞伎」。興味を持たれたら、一度、足を運ぶというのはいかがでしょうか。
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