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防災の仕事がイヤな神戸市職員、でも能登で「おせっかいさん」に変身

ぼくは防災の仕事がいやだ。

災害が起きてしまうと公務員は、避難所の運営や救援物資の配給に率先して動かねばならない。自分や家族の生活を放り投げても、身を投げ打つのが「当たり前」とされている。

そんな防災の仕事がイヤ!

その理由の本体は別にあるのだが、それは後ほどふれている。


されど珠洲市への派遣が指示

そんなぼくに、甚大な被害を受けた珠洲市へ行って、被災者への広報を手助けせよと任務がやってきた。

神戸市は1月中旬から、珠洲市役所の広報をサポートしている。LINEでの発信や災害広報紙の作成を手伝っているのだ。

断る理由はなかった。4年前に神戸市に採用され、昨年3月まで広報戦略部に在籍。困ったら、古巣のみんながサポートしてくれるわけだし…

3連休!やることが降りてこない

広報支援チームがやることは大きくふたつ。①ホームページの更新、②珠洲市公式LINEの運用だ。

どちらも、珠洲市役所の各担当課から「こういう情報を掲載して」と頼まれると、ホームページに反映し、LINEで発信する。

が、派遣されたのは、2月の3連休に重なった。

珠洲市役所では、先月は不眠不休で働いていた職員たちも、さすがにまばら。すると驚いたことに、やることがどこからも降りてこないのだ!

一緒に派遣された長田区役所の井ノ上さんと話しているうちに、「こうなったら、自分たちで仕事を勝手につくろう」と二人で合意。

職場であるはずの珠洲市役所を飛び出して、被災した人たちの声を聞きに行った。

道路に重なるように倒壊した家屋、おかしいほど隆起したマンホールをかすめながら、避難所や各証明書の窓口をまわった。時間はたっぷりある。

そのうち、ぼくたちは広報支援チームはじまって以来の「おせっかいさん」になっていたことに気づいた。

「おせっかいさん」の正体とは?

神戸に戻ってから振り返ると、「おせっかいさん」になることが、広報支援そのものだったように思う。

災害ごみを持ち込める場所へ行くと、なんと、木くず・家電など11種類にわけて、入口から順番通りに指定された場所に車から降ろしていく必要がある。初めて来た人は戸惑うしかない。なので、この仕組みが判るように動画を作った。案外好評だった。

また、さまざまな支援金や義援金を受けるときに使う「り災証明書」の発行は、被災者にとって最も重要な手続きのひとつだ。でも時間がかかるし厄介。だから、会場に足を運ぶ前のストレスが少しでもやわらぐように、会場入口からの手順が分かる動画で説明することにした。

配信の先にいるのは「個人」

珠洲市公式LINEでも「おせっかい」をした。炊き出し、お風呂、支援制度の情報などを発信していた。

ところが、各現場で感じたのは、被災から約1ヶ月半経ったいま、避難所にいる人も大きく減り、いつも同じ文字の情報にみんな「疲れてきている」ようだった。

いつもと同じLINEはもういらないと思う人も増えると感じた。

そんなとき見たのは、炊き出しのカレーを、おいしそうにほおばる子どもたち。やっぱりみんなカレーが好きなんだ。久しぶりのレトルトでない本格カレーでうれしそう。

あ、これだ。

それまでは、いつどこで炊き出しがあるとしか、LINEで発信していなかった。次はカレーが食べられると伝えてみよう!

そうして、メニューを含めた炊き出し情報を配信。

それを見たカレーの炊き出し業者から「鍋持ってくりゃ、ドカッとカレーを注ぎますよ、その写真を発信してもらえますか?」と言われた。喜んで投稿した。人と人がどんどんつながっていく。

テレビニュースで伝えられてきた、避難する人たち、ボランティアの人たち、は今までみんな匿名だった。

それが突然、解像度が高くなった。カレーを食べる子ども、炊き出しのおっちゃん、みんな個人だ。配信したメッセージを見ているのは、あくまで「個人」なのだ。

そして、LINE投稿を「画像さえ見れば、伝えたいことが一発でわかる」ように切り替えた。広報の大原則に立ち返ったのだ。

各部署の担当者から「配信してほしい」と依頼される情報は、ややこしく、分量が多すぎる。そこを、要点だけを取り出して、大胆にそぎ落とした。

さらに、投稿を見た人の顔が明るくなる、親しみを感じてもらえるように工夫した。発信しているのも、機械ではなく、ぼくだ。「人間味」を加えたのだ。

災害から「個」を取り戻すの意味

珠洲市役所で広報の仕事をひとりで担う竹崎雄基さん。彼には次の言葉をなかなか言い出せなかった。

「もっと被災した個人に寄り添って、頑張っている職員の顔や想いが分かる投稿をしたいのですが」

これを神戸市職員が提案するのは、あまりにも失礼だと思ったからだ。

ところが竹崎さんは大きくうなずいて、「わたしもそう思っていました」と、力強く答えてくれた。

そうだ、珠洲に来てからずっと感じたのは、ここの職員たちが持つ、えも言われぬ力強さと頼り甲斐。同じ公務員なのに、ちょっとうらやましいほどだ。それを被災した人たちに伝えようとつくったのが、職員が顔出しで登場する、何でも気軽に相談してくださいという窓口を案内するLINE投稿。

こういう相談をお受けしますという説明はいらない。

珠洲市の職員たちの心の奥にある、気兼ねなく頼ってほしいという気持ちを率直に伝える。「わたしたちがいます」という想いを、配信先の「あなた」に送り届ける。災害から「個」を少しでも取り戻したい。

これがぼくがやった最後の「おせっかい」だった。

防災が苦痛と思う本当の理由

防災の仕事がいやな理由はここにある。災害が起きれば、必ず「個人」が「数」になる。避難者数、行方不明者数…など、じっぱひとからげ。

ひとり一人の「個人」の情報はノイズに過ぎない。均一なデータになってしまう。

だからこそ、たくさんの人を効率的に助けたり、合理的な判断ができたりすることを痛いほど知っている(現職場で防災を担当)。

でも、それがぼくにとって苦痛なのだ。そこには個人がいないから。だから、少しでも被災地の「あなた」と「あなた」がつながるような広報をしたかった。

井ノ上さん(左)、珠洲市の竹崎さん(中央)、筆者(右)

5日間の任務のあと、たっぷりのお湯と石鹸でひさしぶりに身体を洗った。「おせっかいさん」の身体は、すごく汚れていたことに気づいた。それが少し誇らしかった。

<この記事を書いた人>
中村 紀彦/北区役所地域協働課
2020年4月に「デザインクリエイティブ枠」という新しい採用枠で職員になった。大学院の博士課程後期課程までいき、タイの映画監督・アピチャッポン・ウィーラセタクンの研究者として映画業界では知られている。
昨年12月、映画「ほかげ」上映の際のトークイベントで、ダンサーで俳優の森山未來さんと対談。しかも、森山さん本人のご指名だったらしい。

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