見出し画像

茅葺民家が国内トップクラスで多い街 でもほうっておくと消滅?!

日本固有の伝統的な風景「里山」。その典型的なものとしてまず思い浮かぶのは「茅葺(かやぶ)き」の屋根をのせた古民家ではないでしょうか。都会で生まれ育ち、茅葺きとは無縁な日本人でも、なぜか郷愁を覚える人が多いと聞きます。

稲生家住宅(神戸市北区)

茅葺きの民家と言えば岐阜県の白川郷を思い浮かべる人も多いでしょう。ところがです。実はこの神戸市が全国でもトップクラスの数が残る地域であることはあまり知られていません。その数、約800棟。白川郷のように一か所に固まっていないため、観光名所にならない神戸の実情があることを覚えておいてください。

さて、「茅葺き」は植物を束にしたり、隙間に差し込んだりしながら幾重にも重ねて作り上げた屋根です。ただ「茅」という植物は存在しません。使われているのはススキやヨシなどを乾燥させたもので、その総称を「茅」と呼んでいます。
茅葺きの屋根は約20年に一度、葺き替えなければいけません。そこで神戸の民家は、茅が傷まないように上からトタン板を被せていることが多いので、身近に感じにくいのかもしれません。

茅の上から金属板をかぶせた、旧柳瀬家(神戸市西区)

茅葺きの家は、通気性にとても優れ、建物の大敵となるカビの発生や木材の傷みを抑える働きがあります。その結果として建物が長持ちするので「築何百年」という住宅が数多く残されています。また、室内の温度が上昇しにくい構造でもあります。

屋根としての役目を終えた茅は肥料になります。茅を葺くための部材に使われていた竹や木の切れ端は燃料としても使われてきました。まさに今の時代で注目を浴びている「循環性」を持つ仕組みは、SDGsの観点から注目を集めています。

という私も、実際に茅葺きのことをはじめて知ったのは約3年のこと。コロナ禍で鬱々としていたとき、茅葺職人の相良育弥(さがらいくや)さんと出会いました。それがきっかけで、北区にある茅葺民家数軒を訪ねることになりました。

南僧尾観音堂(神戸市北区)

そこで、感動しました!

とっても心地の良い「気」の流れを感じるとともに、まるでジブリの世界に入り込んだようなステキな空間がひろがっていました。「ここで、こんなことができたら面白そう!」といろんな想像が膨らみはじめました。

NPO法人茅葺座が始動

ですが、民家の所有者や相良さんから実態をお聞きすると、ご高齢なのに跡継ぎがいなくなってしまった民家が複数あることを知りました。

茅葺民家を訪問してみると、高齢の方が一人住まいで、屋根や庭の管理・整備が十分に行き届いていない現実を見ました。

「このままだとこの5~10年で急激に茅葺民家が無くなってしまう」

相良さんが、ふとつぶやいたのを聞くと、何とかできないかという思いに駆られました。

もちろん神戸市役所も茅葺民家を大事にしてきました。ですが、もう一歩踏み込むことで、所有者に寄り添ったサポートや提案ができるのではと考えたのです。

そこで、2021年8月に「NPO法人茅葺座」を民間の方と神戸市職員の有志で設立しました。

NPOの代表は大橋秀平さん。大橋さんは、東京でフリーランスの仕事をしながら、神戸市の広報課で働いたこともあります。彼もまた、茅葺民家に心を奪われた一人です。神戸へ移住して、代表に就く決断をしました。

舞台は鈴蘭台の「内田家住宅」

活動の拠点に選んだのは、北区鈴蘭台西町にある「内田家住宅」です。江戸中期に建造され、1996年に兵庫県指定重要文化財に指定。所有者から地域のために使ってほしいと神戸市に寄付されました(トップ写真は同住宅)。

内田家住宅

これまで内田家住宅では、近隣に住んでいる人たちの支援を得ながら、一般公開イベントやお月見会、年末の大掃除とお楽しみ会を開催してきました。

2021年10月にNPO法人茅葺座は神戸市との間で協定を締結。内田家住宅を中心に茅葺きを含む文化財などの保全活用に協力していくことになりました。もちろん地域団体の皆さんの力も求めながらです。

まず着手したのが、「納屋」の大掃除です。というのは、母屋はイベントなどで使われていましたが、納屋は、ほこりが被った荷物でいっぱいの倉庫状態でした。

茅葺座のメンバーやボランティア、近隣大学の学生らによって、納屋が見違えるような空間になりました。きっと今後はいろんな活動に活用されていきます。

また、敷地内にうっそうと茂っていた竹や草木も庭師さんの指導のもと伐採しました。切った竹を活用して竹垣もつくりました。

そんななか思わぬ朗報が届きました!茅葺きの魅力をクリエイティブの力を使って発信をしていた水野百合江さんが、「東京コピーライターズクラブ」の「TCCアワード」で、新人賞を受賞したのです。この団体は日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの支援を行っています。

茅葺座ウェブサイト

ともに考える茅葺きの未来

内田家住宅は鈴蘭台の住宅街の一画にあります。NPO茅葺座は、そんな市街地でも茅葺きを身近に感じられる場面をつくります。

一般開放は7月から9月にかけて決まった日に行われます。9月30日(土曜)にお月見イベント、12月16日(土曜)に大掃除とお楽しみ会が予定されています。

本当は、私たちの思いや活動に共感する人を増やして、茅葺民家をどうするのかを考える味方を増やしたいと思っています。

ですが、まずは内田家住宅に足を運んで、茅葺きの世界に触れることで、一緒に茅葺きの未来を考えてみませんか。

<この記事を書いた人>
長井 伸晃 /企画調整局調整課課長(SDGs推進担当)、NPO法人茅葺座理事、Forbes JAPAN SMALL GIANTSイノベーター
2007年神戸市採用。Uber Eats、アイカサ、マクアケなど17社と神戸市とのコラボ事業を実現する。その実績が評価され、2019年に「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード」を受賞した。全国の公務員が知識経験を共有するプラットフォーム「オンライン市役所」も運営する。
こう紹介するとスゴイ公務員だが、ときどき息子と娘の愛らしい姿をSNSに投稿している。どうやら子煩悩なお父さんでもあるらしい。

<関連記事>

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!