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名谷駅壁画 『春の風』 が紡ぐ物語 ~あなたの声が幕開けの合図~

神戸市広報戦略部の広聴担当のまついです。

皆さんは、市営地下鉄名谷駅の旧駅ビルにあった 『春の風』という壮大な壁画をご存知ですか?
この『春の風』が、今回の主人公です。市民と職員が織りなす、壁画にまつわる熱い熱い物語。

火傷に注意しながらぜひ終幕までお楽しみください!!


突然の幕開け

今から遡ること1年。
名谷エリアを活性化すべく、新たな商業施設の建設が始まった時期のことです。新聞に、「これから名谷が大きく変わる」「旧駅ビルリニューアルのため、壁画は解体」という記事が掲載されました。

その記事を見た方から、市役所に1通のご要望が届き、突如として、物語の幕が開けることになります。

「思い出の壁画を、何とか活用してくれないか?」

そう・・・それこそが、この物語の主人公。 壁画 『春の風』 です。

この壁画は、1977年の名谷駅開業時に設置され、陶芸家の河合紀さん(故人)が制作したものです。
清水焼のパーツで描かれた縦8メートル、横14メートルの超大作。
その美しいデザインと色彩、細部にわたる職人技も相まって、駅のシンボルとして長年愛されてきました。

しかし、駅ビルの老朽化や、駅周辺リニューアルの流れから、壁画の撤去は避けられない・・・解体が決まったと新聞紙が報じたことで、ご要望が届いたというのが事の経緯です。

最初のご要望を皮切りに、複数の問い合わせが届き始めます。

“壁画の一部を展示してほしい。子供が大きくなったら、実はもっと大きな壁画だったという事を伝えたい“

“私も、子供も名谷で生まれ育ち、壁画に愛着がある。一部をぜひ譲ってもらえないか“

どのご要望も、名谷と壁画と共に歳を重ね、双方に愛着があるというものばかり。
壁画を取り壊すとしても、次世代に引き継ぎたいという熱い想いで溢れていました。

意見の花火

駅ビルを所管する、交通局職員たちは慎重に検討を始めます。

たくさんのご要望を受け、職員たちは、その声に応えるために「なんとかして市民のみなさんに配布したい」という思いが生まれていました。

そもそも、この壁画は、45年ものあいだ、日に当たり、雨に打たれています。配布するにしても保存状態を踏まえると、モザイク画の1パーツを小さく刻んで配るのが得策という、至極まっとうな意見から議論が始まります。

しかし、ある職員から反対の声があがります。
「この作品最大の特徴は、パーツを組み合わせて描かれたモザイク画であること。そのパーツをさらに小さく刻む行為には抵抗がある」

全国的にも、駅舎自体に、この規模の壁画があることは珍しく、壁画に愛着を持つ職員が多くいたのです。

ただ、そうなるとパーツによっては、相当な大きさと重さになります。

果たして、そこまで想定している要望者はいるのだろうか。
そして、保存状態を担保できるのか。
更に、それらをどうやって渡すのか・・・。

花火大会のフィナーレのように、意見の花火が次から次に打ちあがります。
ただし、ここでの議論が、解体後の壁画に彩りをもたらすことになるのです。

何度も議論を重ね、結論を導き出しました。

まず、この壁画の特徴を最大限活かすべく、パーツで配布することを決断したのです。
また、多くのご要望、ご意見があったことを受け、公平を期すため販売ではなく無料配布の抽選としましました。

応募できるのは直接取りに来られる方に限定し(破損を防ぐため)、保存状態が担保できた19枚の壁画を配布対象としました。

そして、迎えた抽選日。
630件を超える応募 があったのです。
その倍率、なんと33倍!

担当した職員は、
「募集開始日には、応募受理のメール通知が止まず、正直怖くなった。
他の業務もある中で、内部の様々な意見を調整するのが本当に大変だった。1月の梱包は、空調が効かない解体場所での作業だったので、本当に寒くて辛かったが、皆さんの声に応えられて良かった」
と、ほっとした表情で回顧していました。

なお、この大盛況を受け、保存状態が悪くて、パーツ配布できなかった壁画の「欠片」を追加で抽選配布し、こちらも大変喜ばれたそうです。

幸運の守り神

そんな爆発的人気を博した19枚のパーツ。
幸運を手にした2人の方から話を聞くことができました。

神戸市在住の名谷&タイル好きの女性

“昔から、習い事などで名谷駅を頻繁に利用していました。
もちろん、今でも、広場や素敵な図書館があるので、目的なく気軽に訪れています。
解体を知った時は、最後に一目みようと訪れ、壁画にスリスリしたくらいです笑
当選はとっっても嬉しく、今はリビングの一番目立つところに飾っています“

名谷を終(つい)の棲家と決めた男性

“この地で育った私にとって、名谷駅イコール壁画で、特別な存在でした。
名谷は、駅周辺で全ての生活が完結しますし、三宮まで20分で行けます。
その住みやすさや、利便性から、ここに家を買い、終の棲家とすることに決めました。
駅から壁画は無くなってしまいましたが、むしろ、今は家の守り神として、私たちを見守ってくれています“

2人とも共通して、応募の背景にある名谷への溢れる愛が、とてもよく伝わってきました。

主役たちの今の姿を少しだけ覗かせていただき、盟友と久々の再会を果たした時のような、温かな気持ちになりました。
活躍の舞台を変え、壁画たちの物語はまだまだ続いているようです。

新たな物語

壁画が紡ぐ物語、いかがでしたか。

実は、「壁画を活用してほしい」というご要望は、「わたしから神戸市への提案」という、市民のみなさんが、市政に対して意見や提案を伝えるための窓口を通じて寄せられたものでした。

神戸をめぐる物語は、みなさんのご意見・ご要望から開幕します。
今回の主役は壁画「春の風」でしたが、次の主役は、あなたかもしれません。

黒子である職員一同、次の物語の開幕に向け準備してお待ちしております。
さぁ、新たな物語のはじまりです!

わたしから神戸市への提案

(過去にも施策反映事例を紹介していますのでぜひご覧ください。)

記事作成にあたり、関わった多くの方からお話を聴くことができました。
物語を最も楽しめた観覧者は私かもしれません。
全ての演者と裏方の皆さんに心から拍手!!(スタンディングオベーション)

次の休みには、名谷駅で、今はない壁画に想いを馳せながら、トミーズのポテトを食べることとします。

― 完 ―

<この記事を書いた人>
松井陽介/市長室広報戦略部
堺市役所から神戸市に転職して9年目。
サッカーとフットサルを20年続けたが、アキレス腱断裂で引退を決意。
今は、イカ釣りとヴィッセル神戸をこよなく愛する。
1歳娘の子育て奮闘中で、座右の銘は「毎日ご機嫌さん」。
非公表だが、神戸市には「ご機嫌ヒョウキン枠」という裏採用枠で入庁したとか。

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