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車より歩行者優先のバルセロナ 神戸三宮で同じことができるのか?!

車から歩行者中心の街への転換を進めているスペインのバルセロナ。その大胆な方針が世界中から注目を浴びています。

神戸の中心部にある三宮では、駅前の再整備で、バルセロナのように車から歩行者中心の街に変えようと検討をしていて、じつは私がその担当者なのです。

ですが、今たくさんの車が走っている駅前を見る限り、車がいない歩行者のエリアをつくるのは、どう考えても無理じゃないかと思っていました。

バルセロナは神戸の姉妹都市。そこで、藁をもつかむ思いで、バルセロナ市役所にどうしているのか教えてほしいと頼み込んで、今月上旬、ついに現地で話を聞くことに成功しました。

車と人があふれるバルセロナ

まずバルセロナに行って驚いたのは、自動車の多さです。出張に行く前は、車の数が減ってきたので、歩行者優先にできるのではと、勝手に思い込んでいましたが、そうではありません。交通渋滞は神戸よりずっと深刻でした。

しかも、バルセロナには世界中から観光客がやってきます。路上に大勢の歩行者があふれていました。

スーパーブロックと緑化

そんなバルセロナで、歩行者を優先する取組みは「スーパーブロック」と呼ばれています。

サンアントニという地区に案内されると、そこは碁盤の目のように正方形の街区がきれいに並んでいました。この街区を生んだのが1859年につくられた都市計画です。バルセロナを庭園都市にしようと、街中に「緑」を取り入れようとしていたそうです。

ところが、いつの間にか人口が増えると、緑化するはずの場所が駐車場などに転用されてしまったりします。スーパーブロックに指定された区域は、道路で歩行者が優先されるだけでなく、失われた緑を戻そうとしていました。

例えば、道路側から見えない各街区の真ん中は、かつては緑がある中庭でした。でもそれが駐車場になっているのです。そこでバルセロナ市は、その中庭に緑を復活させるとのことでした。さらに、道路上には街路樹やプランターを置いて緑を増やします。

ただ、駐車場が緑化されると車の持ち主は別の駐車場を探さないといけません。もしかすると、緑化でマイカーを手放させる作戦かもと思いました。

道路全体が歩道に見える?!

バルセロナの市街地の大部分は、1859年の計画で、1辺が約120メートルの正方形の街区が、規則正しく並んでいます。日本でいうと京都みたいな感じです。

スーパーブロックは、その碁盤目のような街区を、縦と横に3つずつ、計9つの街区を単位に設定されます。指定されるとエリア内の道路が歩行者優先になります。

具体的には、交差点では、車は直進が禁止され、右折か左折しかできません。交差点の真ん中が、歩行者優先になって、子どもたちが遊んでいるので、車の運転手は建物沿いの細い道を遠慮しながら走行します。

事故が心配と思うかもしれません。でも、目の当たりにすると、そもそも人と車が「交差」することがないので、安全性は高まっていると感じました。

一番驚いたのは、人々が路上で滞在するようになったので、シャッターを閉めていたはずのレストランや店舗が復活して、賑わいが戻ったと聞いたときでした。

次にアシャンプラ地区という少し離れた場所に移動すると、ここでは車道と歩道の区別すらなく、歩行者はどこでも歩けるのです。

日本では歩行者中心といえば、歩道を広くして車道を狭くするやり方をとります。でも、バルセロナでは全て歩道のように見えます。ですが、時速10キロ以下の制限を守ればトラックですら走行できるのです。

すると、車がゆっくり慎重に走るようになり、その結果、安全になるのです。その発想を理解したとき、目から鱗が落ちました!

日本とは異なる警察組織

ただ、このような交通の規制ができるのは、日本と較べて、警察の組織に違いがあるからです。

スペインの大都市では、国、州、市にそれぞれ独立して警察組織があります。国家警察は国境警備を、州警察は殺人など犯罪捜査を、市警察は交通の規制や取り締まりといった具合に役割分担がなされています。

ということはバルセロナ市役所が、道路の整備と管理、さらに交通規制の権限を持っているので、このように大胆にできるのです。

日本では、横断歩道をつくるかどうかという、地域住民に身近なことですら、なぜか都道府県ごとの警察の役割になっています。神戸市役所には交通を規制できる部門がないので、バルセロナのようにはできません。

バルセロナから得たモノは?

となると、この視察はもしかして無駄に終わるのかと思いましたが、役に立つ情報もたくさん得られました。

その中での最大の学びは、バルセロナではまずは1回やってみるという方法を採用していたことでした。

スーパーブロックを設定するときに、いきなり歩道と車道との境界を示す縁石をなくす工事をしません。まずは、路面にペンキで標示を書いて、いつでも動かせるプランターやベンチを仕切りにして、車が走っていいところが判るようにします。

そしてうまくいきそうなら、道路の工事をして縁石をなくして、路上に大きな街路樹を植え、固定式のベンチを設置していく方法をとっていました。

なので、試行してから住民からちょっと不便じゃないかという意見がたくさんあれば、すぐにやり直しを検討する。

このやり方は遠回りしているように見えて、じつは一番の近道ではないでしょうか。

こんなふうに試行錯誤をやっていく考え方こそが、三宮で歩行者中心のエリアをつくっていくときに、役に立つと感じました(この段落は個人の感想です 笑)!

<この記事を書いた人>
浅野 幸継/都心再整備本部都心三宮再整備課
神戸生まれ神戸育ちで、神戸市役所に就職して15年目。これまで道路工事や防災の仕事が多かったが、今は三宮の街をどうすべきかクリエイティブに考える立場に。
サッカー好きらしく、バルセロナ訪問時にFCバルセロナの本拠カンプ・ノウスタジアムに立ち寄るが、なんと改修中で外観すら見られず。だが、オフィシャルショップでユニフォームは購入した模様。

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